この1年間で不信任決議が可決された主な首長とその後の対応
この1年間で不信任決議が可決された主な首長とその後の対応

 兵庫県の斎藤元彦知事が県議会の不信任決議を受けて失職してから、30日で丸1年となる。この間、不祥事を起こした首長が不信任決議を受けても議会を解散して職にとどまり、再び不信任となるなど、行政運営が混乱、停滞する自治体が目立っている。地方自治は、住民が首長と議員を直接選ぶ「二元代表制」で成り立つが、学識者は「民主主義に対する信頼が揺らいでいる」として、地方自治法の改正を提案する。(前川茂之)

 ■「議会の権限強化を」

 この1年間で可決された首長に対する不信任決議案のきっかけは政策面の対立ではないケースが多い。今月、不信任案が可決された静岡県伊東市の田久保真紀市長の学歴詐称疑惑や、沖縄県南城市の古謝景春市長のセクハラ疑惑など、首長の言動が問われているのが特徴だ。

 法政大大学院の白鳥浩教授(現代政治分析)は「これまでは辞職していたような事例でも、地位にとどまろうとする首長が増えたように感じる」と指摘する。

 その背景として白鳥教授は「メディア環境の変化」を挙げる。コロナ禍を経て交流サイト(SNS)が普及したが、情報の正確性よりも視聴回数が優先され、過激なテロップや切り抜き動画が拡散されやすい。首長への批判は「個人攻撃」と解釈され、逆に「被害者」として支持を集める構図が生まれているとみる。

 こうした現状の打開策として、白鳥教授は「議会の権限強化」を提案する。「議会の調査特別委員会(百条委員会)や第三者委員会は税金を使って専門的な調査をしても、報告書は『単なる意見』として扱われる。一定の法的拘束力を持たせるべきだ」と主張する。

「議会解散の選択肢外す」

 鳥取県知事や総務相を務めた大正大の片山善博特任教授も「地方自治法は欠陥が露呈している」と話す。

 特に、政策ではなくスキャンダルが原因の不信任決議に対して失職ではなく議会解散を選ぶ首長が相次ぎ、「議会解散という選択肢は廃止すべき」と訴える。「問題を起こしたのは首長なのに、議員が選挙に追い込まれる構図は不合理だ」

 片山教授によると、地方自治法は内務官僚を中心に作成され、首長の権限を強くした経緯がある。それを踏まえ、議会の不信任決議があれば原則として首長が失職することとし、首長が不服なら議会の決定を最終的に司法がチェックする仕組みに変えるべきとする。

「住民主体の制度で」

 一方、龍谷大の富野暉一郎名誉教授(地方自治論)は、住民自治の観点から法改正を求める。「匿名性に頼ったSNSのような批判ではなく、実名性を持つ住民が制度主体として責任を持って関与する仕組みがいる」と述べる。

 具体策として「住民による第三者委員会の強制設置制度」を提唱。一定数の署名により、法的拘束力を持つ委員会を設置する案だ。富野教授は「首長と議会の対立が続くと民主主義に対する信頼が失われてしまう。住民が両者の間に立つ調停役として関与し、地方自治のコントローラーとして機能することが不可欠だ」としている。

 【首長と不信任決議】 地方自治法178条が規定し、法的効果がある。地方議会の議員の3分の2以上が出席し、4分の3以上が賛成すると不信任を決議できる。不信任決議が成立すると、首長は10日以内に議会を解散することができ、解散しなければ失職する。議会を解散した場合は40日以内に議員選挙がある。改選された初めての議会で3分の2以上の議員が出席し過半数が賛成して再び不信任決議されると、首長は選択の余地なく失職する。