男一人、異世界に飛び込んだ。サッカー女子の強豪日ノ本学園高(姫路市)を支える3年の今田悠嗣マネジャーは、創部初の男子部員。小児がんの影響で選手の道は断念したが、サッカーに携わる将来の夢のため、共学化した同校の門をたたいた。喜怒哀楽を味わった3年間も全日本高校女子選手権(29日開幕・兵庫県内)が最後。約30人の女子部員と一緒に「笑って終わる」。そう決めている。(初鹿野俊)
ボールを拾いながら練習を見守る。水分や冷却用の氷を準備し、故障者のリハビリも手伝う。選手から笑い声が上がると、自分も思わず頰が緩む。「でも、最初は女子の雰囲気が怖かったんです」
小学生チームのコーチをしている父豊さん(43)の影響を受けた。姫路市立船場小で競技を始め、ポジションは憧れのリオネル・メッシ、クリスティアノ・ロナルドと同じFW。どこにでもいるサッカー少年が周りと違ったのは、小児がん「神経芽腫」を抱えていること。頭部への強い衝撃は命に関わる。手術した右脚にもまひが残る。ヘディングや競り合いを避けながら、同市立琴陵中までプレーを続けた。
高校では危険と考えたが、サッカーから離れようとは思わなかった。父のような指導者、審判員、トレーナー…。将来を見据えて進路を考える中、地元の日ノ本高が男女共学になると知った。女子で全国制覇8度の名門。「高いレベルで学べる」。マネジャーとしての入部を決意した。女子の方が選手への未練を断ち切れるという思いもあった。
当然、他はみんな女子。最初は溶け込めず「しんどかった」。先輩マネジャーに教わり、選手をつぶさに観察。次第に会話も増え、なじんだ。
日ノ本高は昨年、県内の三大大会すべてで優勝を逃した。今年2月の新人大会前も、チーム内の雰囲気は良くなかったという。「このままでは勝てない」。ある午前練習の後、選手一人一人との面談を提案し、胸の内を吐き出させた。最後の26人目が終わった頃には午後10時を過ぎていた。
共通していたのは「日本一になりたい」という強い思い。目標を再確認したイレブンは結束し、頂点まで駆け上がった。3年の上田妃茉里選手は「悠嗣が入ってくれたことでまとまった」と思い返す。
マネジャー業務の傍ら筋力を鍛えて知識をつけ、3級審判員に合格。一部の試合で副審を担う。「みんなの役に立ちたい」という一心だ。
チームは県高校総体、全日本選手権県予選も制し、3年ぶりに県内3冠を引っ提げて集大成に臨む。「本当に日ノ本に来て良かった。日本一になるため最後まで全力でサポートしたい」と意気込む。
























