母親の山本春名さんが書き続けた「幹太通信」
母親の山本春名さんが書き続けた「幹太通信」

 息子の自閉スペクトラム症と知的障害は全てオープンにする。周囲の協力と理解を得るため、両親はそう決めていた。

 山本幹太(かんた)さん(22)は3歳の直前で丹波市の地元保育園に入園した。2歳上の姉が通っていたこともあり、歓迎された。ただ、園はそれまで同症の子を預かった経験が乏しかった。

 そこで母親の春名さん(52)が書き始めたのが「幹太通信」だ。同級生の母親から「幹太くんをもっと知りたい」と頼まれたのをきっかけに、2、3カ月に1回、印刷して先生や保護者に配った。幹太さんの家での様子や特性をつづった。

 入園2年目の9月にはこう書いた。「自閉症障害の人は、自分の気持ちを整理したり、人に伝えることが苦手なため、泣きわめき、頭打ち、噛(か)みつきなどのパニックとよばれる行動を起こすことがあります」。幹太さんがそうだった。

 そんな幹太さんに園がどう向き合ったか。やはり通信に記録が残っている。

 園は教室内の一角を棚で仕切り、幹太さんが周囲を気にせず安らげる空間「幹太ルーム」をつくり、大好きなキャラクターのカードやパズルも置いた。普段はみんなと一緒に過ごし、不安が高まれば先生が連れて行った。

 「居心地の良い幹太ルームに入り浸ってしまうのでは」と春名さんは心配したが、取り越し苦労だった。幹太さんは毎朝ルームでひと遊びだけして、きちんとみんなの輪に加わった。友達を中に入れ、一緒にくつろぐこともあった。

 当時、息子が外出先で所構わず寝転んだり、大泣きしたりする度、「他人の言葉や視線で惨めな気持ちになった」と春名さん。それだけに、園の配慮に救われた。

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 それでも「ちょっとした事件」は起きた。

 ある日、給食のお片付けの際、なぜか幹太さんが「しない!」と言い出した。大声で泣き叫び、弁当箱と箸箱を放り投げる。普段はパニックに慣れ、動じることがない園児たちも、いつもと違う泣き声に驚いた。

 先生は幹太さんが落ち着くのを待って、園児たちに幹太さんの障害を説明した。嫌なことがあっても、うまく言葉で伝えられず苦しくなること。そんな気持ちの時、泣いてしまうのは誰でも同じだということ。

 「これからも幹ちゃんが大声で泣くことがあるかもしれないけど、その時は『うるさいなあ』と思うのではなく『嫌なことがあったのかな』とか『困った気持ちを伝えたいんだな』と思って、心の中で応援してあげてね」。子どもたちは口々に言った。「これからもっと分かりやすく話すよ」

 春名さんは、当時の園が「幹太を丸ごと受け入れてくれていた」と感じている。通信は小学校卒業までに約60回。中学では卒業時にだけ特別号を出した。

 どこでも幹太さんは温かい輪の中心にいた。家族の努力と周囲の理解は大きいが、もともと幹太さんの持つ力だったのかもしれない。春名さんはある保護者からこう言われたことがある。

 「幹ちゃんがいることで、クラスに優しい空気が流れていた」(那谷享平)

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