この夏も幾多の名場面が生まれた全国高校野球選手権大会。8強に進んで旋風を起こした大社(島根)に初戦で敗れはしたが、地元・兵庫の報徳(西宮市)が最終盤に見せた粘りも印象的だった。3点を追う九回2死と後がない場面で、代打の貞岡拓磨選手(3年)がレフト前へタイムリーヒット。土壇場での一打に、甲子園球場は大いに沸いた。「天国で喜んでくれていると思います」。背番号15の脳裏に浮かんだのは、4月に早世した母の笑顔だった。(初鹿野俊)
■大社戦で代打適時打
神戸市立白川小学校2年の頃、野球チームに入った。父洋介さん(46)によると、仲間の輪に加わりづらそうにしている貞岡選手に、母直子さんが「うまくなれば、みんな認めてくれる」と言葉をかけたという。野球経験のない母と、公園で自主練習に励む日々。そのかいあってか上達し、中心選手になった。貞岡選手は「厳しいけど、どんな時も前向き。打った日は優しかった」と、いとおしそうに思い返す。