個別避難計画を基に地域で行われた植田智美さん(左)の避難訓練=稲美町内(提供)
個別避難計画を基に地域で行われた植田智美さん(左)の避難訓練=稲美町内(提供)

 稲美町は、町内在住で重度知的障害のある植田智美さん(33)の「個別避難計画」を策定した。同計画は災害時に自力で避難することが難しい人を対象に、避難ルートや支援の留意点などを定める。同町の障害者としては初めての策定で、実際に小学校まで避難する訓練も行われた。(中川 恵)

 植田さんは一軒家で両親と3人で暮らす。日中は生活介護事業所を利用しており、生活全般にサポートが欠かせない。自分で歩けるが速度は遅く、誰かが寄り添って支える必要がある。場所が変わると眠れないことが多く、母貴代さん(64)は「災害時にどうしたらいいかは、しょっちゅう考える」と話す。

 計画の策定は、担当する相談支援専門員の声かけでスタート。基礎情報や避難ルート、植田さんの日頃の様子や留意事項などを書き出してまとめた。3月24日には計画を基に、震度6の大地震を想定した避難訓練を行った。

 植田さんと家族、ヘルパーや近所の人ら10人が参加し、約1・2キロ離れた1次避難所の小学校に向かった。大人の足で20分ほどの距離だが、植田さんは1時間以上かかり、途中で座り込んでしまう可能性がある。訓練では途中まで車で移動し、最後の500メートルほどを車いすで避難した。道中には高い塀やブロック塀があり、倒壊の恐れがあることが分かった。

 避難所となる小学校の体育館で、貴代さんは想像をめぐらせた。ここに大勢の避難者がいたら-。植田さんはルールが分からず、人の物を触ったり、うろうろしたりするだろう。ざわざわした雰囲気に不安を感じて声が出るかもしれない。「他の人に迷惑をかけることが想像できた」と貴代さんはつぶやいた。

 訓練の振り返りでは、参加者から「(計画には)細かな対応方法が書いてあり、分かりやすい」「何かあれば協力できると思う」などの心強い声があった。一方で、課題の多さを痛感した貴代さんは「小学校まで距離もあるし、家で過ごすのが現実的かもしれない」と話す。計画の備考欄には、水や食料などの物資を家で受け取る方法を考える必要性などが書き加えられた。

 同計画の策定は2021年、市町の努力義務となった。稲美町は22年度に要綱を策定し、ケアマネジャーや相談支援専門員を有する法人と契約し、委託料を支払って計画の策定や避難訓練を行っている。計画が必要な高齢者や障害者は約1200人(24年9月末時点)で、策定済みは高齢者で数件、障害者は植田さんが初めてという。

 同町危機管理課の担当者は「策定はまだ始まったばかり。課題は、ほかにも出てくると思う。対応を検討していきたい」とした。