東京電力福島第1原発で発生している汚染水を浄化した「処理水」の海洋放出について、計画の安全性を検証してきた国際原子力機関(IAEA)が「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を公表した。人や環境への放射線の影響は「無視できるほどごくわずか」とした。
海底トンネルなど海洋放出の設備も6月に完成した。IAEAの報告書で海洋放出への条件はそろったとして、これまで「夏ごろ」としてきた放出開始の具体的な時期を岸田文雄首相が判断するという。
しかし風評被害を懸念する全国の漁業者などが反対を続けている。韓国などでも放出に否定的な見方が根強い。政府と東電は、福島県漁業協同組合連合会に対し「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と約束していた。これをほごにして、一方的に放出時期を決めることは到底容認できない。
処理水は、原発事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす水などの汚染水から大部分の放射性物質を除去したものだ。130万トン以上が保管され、来年2~6月ごろにタンクが満杯になるとされる。計画では、除去できない放射性物質トリチウムの濃度を国の基準の40分の1未満に薄め、沖合約1キロに放出する。
IAEAの検証は日本政府の依頼で行われた。2年近くかけてまとめた報告書は放出計画の安全性を評価し、福島第1原発に職員が常駐して放出開始後も監視を続けるとした。
ただ、報告書は「(放出の)方針を推奨するものでも、支持するものでもない」と留保を付けた。IAEAの検証は一つの判断材料に過ぎず、これでゴーサインが出たわけではない。放出には言うまでもなく国民的な合意が欠かせない。
復興途上にある漁業者が、放出による風評被害の広がりに不安を抱くのは当然だ。全国漁業協同組合連合会は6月に「反対は変わらない」とする特別決議を採択している。
東北地方の生活協同組合連合会なども計25万人分を超える反対署名を集めた。トリチウムは通常の原発からも放出されるが、署名では、事故を起こした原子炉からの処理水は違うのでは-との疑問を投げかける。
日本世論調査会が今年実施した全国世論調査でも、海洋放出に賛成26%、反対21%と割れた。「分からない」も53%を占めた。政府や東電の説明は明らかに不足しており、福島産をはじめ海産物への消費者の不安が払拭されているとは言い難い。
放出は廃炉作業と並行して数十年続くものであり、「日程ありき」での強行突破は許されない。政府は、反対や懸念の声に真摯(しんし)に耳を傾け、説明を尽くすべきだ。
























