「患者の予期せぬ死亡」を対象とする国の医療事故調査制度の実効性に疑問符が付く。
神戸市垂水区の神戸徳洲会病院で、循環器内科の医師にカテーテル治療を施された複数の患者の死亡が発覚した。神戸市は患者の死因の調査が不十分だったとして、医療法に基づき同病院を行政指導した。
市によると、この医師は今年1月に同病院へ赴任し、男女3人の患者の死亡例に関わっていた。いずれも死因は不明だったが、院内の委員会による調査を実施せず、医療事故調査制度の対象にもしていなかった。
医師はカテーテル室での治療を実質1人で担っていた可能性があり、市は病院の安全管理体制に問題があったとみている。
事故が発覚したのは、関係者から市へ匿名の情報提供があったからだ。市の調査に病院長は「どのような形で(院内の委員会を)開けばいいか分からなかった」と釈明したという。人命を預かる組織として危機管理意識が欠けている。
見過ごせないのは、今回の事故に関する電子カルテへの記載がない点だ。家族に対して治療の経過や死因などを説明した形跡もなく、家族が事故の可能性を認識していなかった疑いがある。
市の調査などを受け、病院側は死亡した患者のうち2人について、医療事故調査制度に基づき外部の専門家を交えて検証する。だが、当初は院内調査すら実施しなかったのは隠蔽(いんぺい)と受け止められても仕方がない。
同制度は、医療機関側が事故を厚生労働省所管の「医療事故調査・支援センター」に報告し、自ら調査する仕組みだ。事故から学び医療の質を向上させることを目指しており、責任追及は目的としていない。
だからといって調査するかどうかを医療機関が恣意(しい)的に判断するのは患者側への背信行為だ。
制度が始まった2015年には、年間約1300件の報告が見込まれていた。しかし実態はその3割に満たない。院内調査や遺族への説明を省くため、報告しないケースもあるという。これでは制度が形骸化しているとの批判は避けられない。
薬剤の誤投与など00年前後に重大な医療事故が相次ぎ、国民の医療不信は高まった。それが制度発足の背景となった点を、医療機関は思い起こす必要がある。第三者機関や学会も関わって、報告や調査を適切に実施することを義務づける制度改正も検討するべきだ。
徳洲会病院に関する市への情報提供では、死亡患者は5人以上という。ほかにも問題のある症例がないか、病院側が責任を持って調査し、全容を明らかにせねばならない。
























