少なくとも数百人に上るとされる性暴力被害者の救済や補償が、迅速かつ確実に行われるのか。再発防止を含め、注視し続ける必要がある。

 ジャニーズ事務所はきのう記者会見を開き、創業者の故ジャニー喜多川氏がジャニーズJr.の少年たちに対し長年にわたって性加害を繰り返していた事実を初めて認め、被害者に謝罪した。

 会見は遅きに失したと言わざるを得ない。席上、喜多川氏のめいにあたる藤島ジュリー景子氏は5日付で社長を引責辞任し、後任にタレントの東山紀之氏が就任したことを明らかにした。藤島氏は代表取締役にしばらくとどまり、被害者の補償に当たるとした。

 これでやっと、被害者救済のスタート地点に立ったと言える。ジャニーズ事務所が「解体的な出直し」を果たせるかどうかは、これからの取り組みにかかっている。

 喜多川氏による性加害を「知らなかった」と発言してきた藤島氏は、会見で「今は事実だと認識している。当時は十分に調査できなかった」と釈明した。また「親族であっても、(喜多川氏に)ものが言えなかった」とも述べた。

 エンターテインメント業界を代表する企業にもかかわらず、法令順守の意識に欠け、組織統治の不全は深刻だった。藤島氏の社長辞任は当然である。

 8月末、ジャニーズ事務所が設けた外部専門家の「再発防止特別チーム」は、調査結果を報告するとともに、被害者救済の具体策を提言した。事務所側は提言に沿って取り組むとしており、会見では、専門家による救済委員会の設置を表明した。

 新社長の東山氏は「法を超えて対応する」と話した。ジャニーズ事務所との対話を求めている被害者もいる。救済や再発防止に、被害者の声を最大限反映することが重要だ。

 特別チームの調査は、性暴力が被害者の心身にいかに深い傷を負わせるかを改めて浮き彫りにした。

 聞き取りに対して、自殺願望を抱くようになった、うつ病になった、自分を汚いと思ってしまう-などの回答があった。未成年のときに同性から被害を受けたことを「恥」と感じ、だれにも相談できなかった人は多い。今も続く苦しみへのケアが不可欠である。

 政府は、男性と男児に特化した性被害の相談窓口の新設や、親族や雇用関係などの立場を利用した性犯罪の取り締まり強化を決めた。芸能活動に関わる子どもを保護する法整備も併せて進めるべきだ。

 旧弊がはびこるエンターテインメントやメディア業界全体が変わる契機とせねばならない。