政府は、物価高に対応した経済対策の裏付けとなる総額13兆1992億円の2023年度補正予算案を決定した。
岸田文雄首相は閣議や臨時国会で、「成長の果実である税収増を国民に適切に還元する」と述べていた。ところが予算案の財源をみると、首相が掲げた税収の増加分は1710億円にとどまった。全体の7割近くの約8・8兆円を国債発行に頼っている。
経済対策の目玉である所得税と住民税の減税は24年6月実施なので今回は計上されていないが、さらに5兆円規模の財源が必要となる。鈴木俊一財務相は国会答弁で、これまでの税収増加分は国債の償還などに充てたため残っていないと述べた。これから税収が数兆円も増えるとは考えにくい。
財源の国債頼みが繰り返されそうだ。首相の言う「還元」のために、新たな借金に頼る矛盾が露呈したと言わざるを得ない。借金の山をこれ以上高く積み上げ、財政規律を緩ませてまで減税を講じるほど厳しい経済状況なのか。臨時国会の論戦を通じて、与野党は厳しく見極める必要がある。
補正予算案の内容で見逃せないのが、さまざまな政策課題についての基金に4・3兆円を投じる点だ。半導体支援など既存の27の基金に積み増すほか、宇宙戦略など新たに四つの基金を設ける。
基金は中長期的な政策推進に充てるため複数年度にわたり予算を積み立てる。新型コロナ禍で相次いで新設された結果、その数は180を超え、残高は16兆円を上回る。
国会などのチェックが利きにくい上、成果目標がなく費用対効果が不明瞭だったり、実務を民間に丸投げしたりといった例も少なくない。そもそも政策遂行に必要なら、補正ではなく当初予算段階から手当てするのが筋だろう。
現状のまま基金に巨額の予算を投じることが、賢明な支出とは言い難い。基金制度そのものについて見直しを考える必要がある。
内閣支持率の低迷が続き、首相は年内の衆院解散を断念した。今回の補正予算案で内閣支持率を向上させて総選挙を勝ち抜き、さらには来年の自民党総裁選を有利に戦う思惑があったとされる。
防衛増税など将来の負担増を打ち出す一方で税収増を還元するとしたちぐはぐさが、国民の支持を得られないのは当然だ。
しかも税収増自体が実態の乏しい内容とあっては、首相の発言に対する国民の不信はいっそう募る。首相は改めて真摯(しんし)な姿勢で政権運営に当たらねばならない。
























