国はいつまで解決を先延ばしするのか。

 旧優生保護法(1948~96年)下で、障害などを理由に不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、宮城県の70代と80代の男性が国に損害賠償を求めていた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は計3300万円の賠償を命じた一審判決を支持し、国の控訴を棄却した。国は判決を不服として上告した。

 一連の訴訟ではこれまでに6件の高裁判決が出され、4件は賠償を命じたが、国はいずれも上告した。原告側が上告した訴訟も含め、最高裁第1小法廷は全15人の裁判官による大法廷での審理を決めた。憲法判断や判例変更が求められる重要な裁判と位置づけたことを意味する。

 最高裁の判断を待たなくても、国が戦後最大とされる人権侵害を主導した点は明白だ。賠償を命じなかった判決も、優生施策は違憲と認めている。にもかかわらず、過ちを認めない国の姿勢は看過できない。直ちに被害者救済を図るべきだ。

 一連の訴訟では、不正行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」が適用されるか否かが最大の争点となった。

 今回の仙台高裁判決は、事情により期間を延ばせる「時効」の考え方を初採用し、手術後20年を過ぎても請求権は消滅しないと判断した。救済の法的根拠を拡大し、賠償などへの道筋を明確にしたといえる。

 強制不妊手術を巡っては、議員立法による一時金支給法が2019年に施行された。だが支給額は320万円にとどまり、責任の所在も明記されていないことから、受け取らない被害者も多い。国会の調査で深刻な人権侵害の一端が浮かんだが、国は正式には謝罪していない。

 国と自治体が強制不妊を推進する中、被害者が長年、声を上げられなかったのは当然である。国が「除斥期間」の適用を主張するのは、被害者への責任転嫁にほかならない。兵庫県が展開した「不幸な子どもの生まれない県民運動」に神戸新聞が賛同した点は、わたしたちも省みる必要がある。

 全国の弁護団は、早期・全面解決を求める集会を東京都内で開いた。兵庫県からも12歳で子宮を切除された鈴木由美さんが参加し、「障害者が普通に暮らせる社会を」と訴えた。旧優生保護法の施行から75年がたち、被害者の高齢化も進む。一刻も早い解決が求められる。

 鈴木さんらへの賠償を命じた3月の控訴審判決で大阪高裁は、国が違憲と認めない限り除斥期間は適用されないと厳しく指摘した。「時の壁」を盾に責任をかわそうとする国の姿勢は、決して許されない。