米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相が、沖縄県に代わって軟弱地盤改良工事の設計変更を承認する代執行に踏み切った。国が自治体の事務を代執行したのは初めてで、きわめて異例である。

 防衛省は来月12日にも、軟弱地盤がある大浦湾の埋め立てに向けた工事に着手するとしている。

 玉城(たまき)デニー知事は、代執行に対し「県の自主性や自立性を侵害する」と述べた。国と地方は「対等・協力」の関係が原則であるはずだ。代執行は地方の権限を奪い、自治を否定する暴挙と言うほかない。

 代執行は地方自治法で定めた手続きで、自治体側に法令違反や怠慢があり、著しく公益を害する場合に行う。地盤改良工事の設計変更を県側が承認しなかったのは、沖縄に集中する米軍基地の負担が重く、移設に反対する民意を尊重したためで、理由のない違反や怠慢ではない。

 玉城知事が「全ての都道府県に起こり得る」と指摘するように、代執行は沖縄県に限った措置ではない。地方に住む私たちの権利に関わる問題として捉える必要がある。

 今月、玉城知事は設計変更の承認に関する代執行訴訟で敗訴した。この福岡高裁那覇支部判決を不服として最高裁に上告したが、代執行の効力は裁判中も維持され、国が踏み切った。だが工事を強行すれば、県民の反発はさらに強まる。国は着手を見送り、少なくとも最高裁の判断を待つべきだ。

 たとえ工事を始めても、軟弱地盤のために事業完了には12年以上がかかる。住宅地に囲まれた普天間の返還合意から27年が過ぎ、早期の危険性除去という本来の目的は失われている。総工費も当初の2・7倍となる約9300億円に膨らみ、さらに増える可能性が否めない。加えて、辺野古が完成しても米軍は普天間に残るとする専門家の見方もある。

 代執行訴訟は翁長雄志(おながたけし)前知事の時代にも国が提訴した。このとき福岡高裁那覇支部は和解を勧告し、双方が受け入れた。同支部は基地問題が法廷闘争になじまず、沖縄を含めた国全体で最善の策を探り、米国に協力を求めるべきものとした。

 今回の高裁那覇支部判決も、国の主張を認めて知事に承認を命じると同時に、付言を設けて、国と県の対話による抜本的解決を求めた。国は判決主文よりも、むしろ付言にこそ耳を傾けなければならない。

 力で地方を服従させる手法は、民主主義にはそぐわない。国がまず代執行を取り下げ、対等な立場で沖縄県との話し合いのテーブルに着く。普天間の危険性を少しでも早く解消する方法は、それ以外にない。