相次ぐ「政治とカネ」の問題に、有権者は厳しい審判を下した。

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件後初の国政選挙となった三つの衆院補欠選挙で、自民が「不戦敗」を含め全敗した。岸田文雄首相は結果を重く受け止め、政権運営全般の反省につなげねばならない。

 内閣支持率の低迷にあえぐ首相の求心力が一段と低下するのは避けられない。衆院解散を巡る判断、9月の自民党総裁選での再選戦略にも影響が及ぶのは必至だ。

 3選挙区は、もともと自民の議席だった。選挙買収や裏金事件で議員が辞職した東京15区と長崎3区は候補者の擁立を見送った。勝ち目がないからと有権者に選択肢の提示すらしないのは、政権与党としてあまりにも無責任ではなかったか。

 一方、細田博之前衆院議長の死去に伴う島根1区は、自民新人と立憲民主党元職の一騎打ちとなった。

 島根は1996年の小選挙区制導入以来、自民が全選挙区を独占してきた保守王国だ。地力に勝り「弔い選挙」で有利なはずだが、細田氏は生前、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との不明朗な関係やセクハラ疑惑が指摘された。組織的な裏金づくりを続けた安倍派のかつての会長でもあった。細田氏は十分な説明責任を果たさぬまま亡くなった。

 首相は2度現地入りし「政治改革の先頭に立つ」と訴えたが、通じなかった。事件へのけじめも疑念解消への取り組みも不十分な党と政権への不信がいかに根深いかを物語る。

 政治への信頼を取り戻すため、自民は今国会で政治資金規正法の抜本的な改正と裏金事件の全容解明を実現しなければならない。首相に求められるのは有権者の怒りを直視し、行動と成果で応えることだ。

 敗因は「政治とカネ」の問題だけに限らない。政権運営に対する評価の表れと捉えるべきである。

 安保政策や原発回帰など、異論に耳を傾けず幅広い国民的合意を探る努力もしないまま、首相は政策の大転換を推し進めてきた。少子化対策や防衛費の大幅増に必要な財源についても国民の負担増につながる議論からも逃げているのが実情だ。

 大企業を中心に賃上げは実現したが物価上昇に追いつかず、物価高や地方の疲弊に有効な手だてを講じているとは言い難い。首相は直近の民意に謙虚に向き合う必要がある。

 他方、野党は全勝が敵失による結果に過ぎないことを忘れてはならない。巨大与党に対峙(たいじ)するには野党共闘が不可欠だ。次の衆院選に向け、候補の一本化と同時に、民意の新たな受け皿となる政権の枠組みに対する考え方や共通政策などの徹底した議論とすり合わせが急がれる。