「赤ちゃんって、どうやってお母さんのおなかに来るの?」。幼い子どもから、こうした素朴な問いかけをされてどきっとした経験のある人はいないだろうか。
近年、幼児への性教育が保育所などで広がりつつある。例えば、男女の身体の違い、おなかに宿った赤ちゃんが生まれてくるまでの様子、自分の体を大切にすること-を絵や人形を使って伝えている。
今の子どもたちは、たとえ意図していなくても、スマホなどで性に関する偏った情報に早くからさらされる危険がある。子どもを狙った性加害も後を絶たない。性暴力の被害者や加害者にならないためにも、正しい知識を持つことが重要だ。
「こどもの日」のきょう、これからの性教育について考えたい。
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三木市では昨年度、保育所や幼稚園の計4園が、助産師や保健師の資格を持つ市職員を招いて性に関する「授業」を行った。その一つ、別所認定こども園は5歳児を対象にした。水着姿の女児と男児のイラストを並べ、講師が語りかけた。
「水着で隠れているところをプライベートゾーンといいます。男の子は赤ちゃんの種、女の子は赤ちゃんの卵をつくるところ。大事な部分だと知ってね」「プライベートゾーンは、自分の許可なしに他人に見せたり、触らせてはいけません」
藤本恵美(めぐみ)園長は「命の大切さを知り、自分を守る基礎的な知識を身につけてほしい。それは自分自身や他の人を大事にすることでもあるんだよと伝えたい」と話す。特に印象に残った場面があるという。
祝福されたと実感
胎児が成長して生まれるまでの説明を聞いた後、赤ちゃんの人形を手渡された園児たちは皆、いとおしそうにだっこした。「自分もこんなふうに祝福され、大切にされてきたと感じてくれたと思う。性教育の大事な1歩」。藤本園長は子どもの発達に合わせて性教育を積み重ねることが必要だと指摘する。
親世代の中には、学校で性教育を受けた記憶がほとんどない人もいるだろう。現在、小中学校では第2次性徴期の体の変化や、生殖の仕組み、性感染症の予防などを学ぶことになっている。
しかし、性行為は取り上げない。学習指導要領に「妊娠の経過は取り扱わない」などと記され、学校現場が「性交を教えてはいけない」と受け取っているためである。「はどめ規定」と呼ばれる。根底に「寝た子を起こすな」という旧態依然とした考えがあるように映る。
土台には人権尊重
一方、国際的な潮流は異なる。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2009年、5歳から幅広く性について学ぶ「包括的性教育」の指針をつくった。発達段階に応じて妊娠の仕組みをはじめ、性的同意やジェンダー平等などについて学習する。義務教育で取り入れる国もある。
人権尊重を土台としているのが特徴で、性教育の枠組みが狭い日本とは対照的とも言える。
兵庫県で保健師として働いていた大石真那さんは、22年にNPO法人「HIKIDASHI(ヒキダシ)」を設立した。拠点の明石市を中心に、中学校や公共施設で性教育の講座などを手がける。
大石さんが公務員から転身したのは、新型コロナウイルス禍で10代からの妊娠の相談が急増したとの報道に接したのがきっかけだ。4人目に長女を授かったことも、性教育の遅れに目を向ける契機となった。活動を通して「幼児は驚くほど素直に理解してくれる」と実感している。
大切さは分かるが、具体的にどうすれば…と戸惑う大人は多いはずだ。大石さんは「例えば家庭で答えにくい質問を受けても『あとで一緒に調べよう』と返すなど、性の話題をタブー視する雰囲気をつくらないことが大事」と語る。
子どもたちが幸せに生きるための知識やスキルを伝えるのが、性教育の役割だ。その「出発点」を、大人が共有することが求められている。