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 生命科学と理工学を融合させた「バイオ・メディカル・エンジニアリング(BME)」分野で、独創的な実績を上げた研究者を表彰する「神戸賞」が創設された。4月に第1回の受賞者が決まり、6月には神戸市内で授賞式がある。都市名を冠した数少ない学術賞であり、神戸の医療産業都市が存在感を高めるためにも、この賞を地域で大切に育てたい。

 大賞の賞金は5千万円と高額だ。45歳未満が対象の「ヤング・インベスティゲーター(若手研究者)賞」に選ばれた3人にも賞金500万円と5年間に4千万円の助成金を支給する。

 賞をつくった公益財団法人「中谷医工計測技術振興財団」(東京)は、医療用検査機器を世界展開するシスメックス(神戸市中央区)を創業した故中谷太郎氏が私財を投じ設立した。民間資金による財団法人としては国内有数の規模を誇る。独創的なイノベーション(技術革新)で、日本を元気にすることを目指す賞の発展が期待される。

 第1回の大賞には、東京大大学院薬学系研究科の浦野泰照教授を選んだ。体内にある特定の細胞を生きたまま可視化する「バイオイメージング技術」の研究者で、目的の細胞を光らせる分子の設計法を確立した。病気の解明や創薬に不可欠な技術とされ、世界に大きなインパクトを与えたという。

 都市名を冠する賞では、40年近い歴史を持つ京都賞が知られる。京セラ創業者の故稲盛和夫氏が創設し、歴代受賞者は山中伸弥氏や本庶佑(たすく)氏ら後にノーベル賞を受けた著名人が並ぶ。

 これに対し、神戸賞が対象とするBMEの分野は今後、日本が世界をリードできる可能性を秘める。ただ、一般にはなじみが薄く、専門的な内容になりがちだ。研究費は潤沢とは言い難い。研究者の将来性を重視して、民間の財団が支援する意義は大きい。財団は今後も、受賞者の業績などを丁寧に伝える努力を続けてほしい。

 中谷氏が手がけ、健康診断などで身近になった血球計数検査装置のように、BMEの進歩は健康や福祉に直結する。市民向けの公開講座などを通じ、「わが街の賞」として広く認知される機会を増やす必要がある。