通常国会が召集され、石破茂首相が初の施政方針演説に臨んだ。

 自民、公明両党は昨秋の衆院選で大敗し、少数与党に転落した。数の力で強引に政策を進める「自民1強」時代の手法は通じず、野党の協力なしに予算案や法案を成立させることができなくなった。開かれた場で議論を尽くし、多様な意見を尊重しつつ合意形成を図る「熟議の政治」を定着させることができるのか、その真価が問われる国会となる。

 能登半島地震の復旧・復興や物価高対策、トランプ米大統領への対応を含む外交など課題は山積する。政府、与党は主張を押し通すのではなく、野党の意見による修正も辞さない柔軟な対応を基本に、政策を着実に前に進めていかねばならない。

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 首相は厳しい国会運営を迫られる状況を踏まえ、「真摯(しんし)な政策協議によってよりよい成案を得るという民主主義本来の姿に立って、政権運営に当たる」と述べ、野党への配慮を強くにじませた。

 最大の焦点が115兆円に上る2025年度当初予算案が成立するかどうかだ。昨年の臨時国会では日本維新の会と国民民主党が24年度補正予算案に賛成した。首相は「野党にもこれまで以上に責任を共有してもらう」とけん制するが、攻勢を強める野党は修正を求める構えだ。年度内に成立できなければ、国や自治体の行政や国民生活への影響はもちろん、政権の浮沈に直結する事態も想定され、予断を許さない。

■野党も重い責任負う

 所得税の非課税枠見直しで、与党は103万円を123万円に引き上げる形で税制改正大綱をまとめた。しかし178万円を主張する国民民主とは隔たりがある。手取りを増やす政策は国民も歓迎するが、財源をどうするのか。各党は税の公平性や社会保障の将来像を含む責任ある案を示し、結論をまとめてほしい。

 一方、与党は教育無償化に関する議論を維新と進めており、学校給食無償化などを訴える立憲民主党とも協議を続ける。予算成立を急ぐあまり、野党の要求を丸のみすれば大幅な歳出増や税収減が生じかねない。政策実現を迫る野党も、その効果と財源の裏付けについて説明責任を果たしてもらいたい。

 首相が看板政策とする地方創生は「令和の日本列島改造」と位置付け、東京一極集中の是正へ「産官学の地方移転と創生」「新時代のインフラ整備」など5本柱を掲げる。新設する防災庁など政府機関の地方移転や産業拠点の再配置などを挙げるが、従来の取り組みの域を脱していない。地方の視点に重きを置いた、さらに踏み込んだ具体策を求める。

 首相は「賃上げこそが成長戦略の要」とし、物価上昇を上回る賃上げの実現を訴えたが、深刻な物価高にあえぐ国民には実感が湧かない。

 野党が導入法案の提出方針を示す選択的夫婦別姓について、首相は言及しなかった。自民には慎重論が根強いが、導入は時代の要請だ。国民の声を反映した結論を導き出す責務が与野党に課せられている。

■「政治とカネ」決着を

 自民党派閥の裏金事件に端を発した「政治とカネ」を巡る問題は、いまだに決着していない。

 昨年の臨時国会では、政策活動費の廃止など一定の成果が見られた。焦点は企業・団体献金の扱いだ。与野党は3月末までに結論を得るとしている。だが禁止を求める立民などの野党と存続を主張する自民との溝は深い。30年前の政治改革から積み残されてきた宿題である。国民の信頼回復に向け、首相は金権腐敗と決別する覚悟で禁止を決断すべきだ。

 昨年末の政治倫理審査会でも裏金問題に関与した当該議員は責任逃れの姿勢に終始し、目的や使途など実態はなお不透明だ。裏金は東京都議会自民党の政治団体でも判明した。もはや自民の体質と指摘されても仕方あるまい。参考人招致など国会で引き続き究明すべき問題である。

 今夏には参院選があり、有権者の政権に対する評価が再び下される。重い選択の機会を前に、今国会を有権者に判断材料を提供する政策論争の場とする必要がある。

 野党の責任も格段に増した。与党との駆け引きが先立つようでは民意も離れよう。最大野党の立民は野党共闘の結集軸となるためにも、与党以上に国民の声に耳を傾け、政策に反映させる努力が欠かせない。

 来週には各党の代表質問がある。丁寧に説明し、建設的な議論を重ねて与野党が一致点を探る。芽生えた真の熟議の機運を深化させ、言論の府を立て直さねばならない。