石破茂首相が3日夜に首相公邸で開いた自民党衆院1期生15人との会食に際し、首相事務所が土産名目で1人当たり10万円分の商品券を配っていたことが判明した。
首相は私費で支出したとして「法律には全く抵触せず問題はない」とするが、個人から政治家に対する金銭等の寄付などを禁じる政治資金規正法に抵触する可能性がある。
自民派閥裏金事件に端を発した「政治とカネ」問題への対応が問われる中、疑念を招きかねない金品を渡すこと自体、軽率のそしりは免れない。首相は猛省し、国民の理解を得られない行為は厳に慎むべきだ。
野党は批判を強め、国会で首相を厳しく追及している。与党内からも苦言を呈する声が上がる。2025年度予算案や重要法案の成立に野党の協力が不可欠な少数与党下で、政権運営への打撃は必至だ。
政治資金規正法21条は、政治家の政治活動に関して寄付をしてはならないと定めており、政治家個人への金銭等の寄付を禁止している。金銭のほか商品券などの有価証券も含まれると解釈され、首相の説明や答弁には疑問が残る。
首相は配布の趣旨を「会食の土産代わりに家族へのねぎらいの観点からだ」とし、政治活動ではないと主張する。配布対象に自身の選挙区に住む人はおらず、公選法にも触れないと強調する。一方、過去にも商品券を配ったことがあると述べた。
10万円の商品券が社会通念上「土産」として通用するのか。「私費で用意」の主張は違法の指摘を逃れるための後付けと見られても仕方ない。法的に問題がないと言い切るには無理がある。首相は裏金事件の関係議員に対し丁寧に説明するよう強く求めてきただけに、自らも説明責任を果たさねばならない。
折しも国会では、政治資金改革を議論しているさなかだ。焦点となる企業・団体献金の在り方について、与野党は今月末までに結論を得ることで合意している。
首相は「禁止より公開」を繰り返し訴えてきた。これを踏まえ、自民は各政党に対する企業・団体献金の総額と年間1千万円以上の献金をした企業・団体名を公表する政治資金規正法改正案を提出した。ただ公表対象の政治団体は極めて限定的で、ガラス張りには程遠い。禁止を求める野党との隔たりは大きく、合意は見通せない状況にある。
年金制度改革関連法案の扱いや、高額療養費制度の見直しで方針転換を重ね、首相への批判は高まっている。国民感覚とのずれを直視できなければ信頼回復は望めない。一層の危機感を持って「政治とカネ」に向き合い、けじめをつけるべきだ。