イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの本格的な攻撃を再開した。全域で大規模な空爆を行い、南部ラファなどで地上侵攻を展開した。1月にイスラム組織ハマスと合意した停戦枠組みは事実上崩壊した。

 イスラエル側はハマスの拠点に限った攻撃と主張するが、ガザの保健当局によると、600人を超える犠牲者には女性や子どもも多く含まれる。停戦を歓迎していた市民を再び戦闘に巻き込むのは許し難い。イスラエルはただちに攻撃をやめ、停戦交渉に戻らねばならない。

 イスラエル首相府は、ハマスが人質の解放を拒んだことを攻撃の根拠とする。一方、ハマスは声明で「ネタニヤフ首相と過激派が合意破棄を決めた」と強く反発している。

 1月19日に発効した停戦合意は、第1段階でハマスの人質解放とイスラエルのパレスチナ人収監者の釈放を進め、今月1日以降の第2段階で恒久停戦やイスラエル軍撤退を協議する方針だった。しかし、イスラエルが撤退に難色を示し、米国がハマスと直接交渉していた。

 イスラエルは暫定的な停戦延長とさらなる人質解放を要求したが、撤退の見通しがなければハマスはのみにくいだろう。ガザの人道危機は一層の悪化が懸念される。

 攻撃の再開前にイスラエルはトランプ米大統領の了承を得たとする。仲介役が攻撃を容認したのであれば関係各国の信義に反し、言語道断だ。直ちに制止すべきである。

 トランプ氏は先月、ガザを米国が所有した上で住民を域外へ移住させ、再建や経済開発を進める構想を示した。ネタニヤフ氏も賛同したというが、住民を意に反して移住させる行為は国際法に違反し「民族浄化」にもつながる。全く容認できない。ガザ市民や国際社会が強い懸念を示すのは当然である。

 トランプ氏は、ハマス側が人質を解放しなければ「地獄が訪れる」などとの脅しを繰り返す。本来果たすべき役割は、イスラエルに軍撤退や恒久停戦の協議に入るよう強く促し、その上でハマスに早期の人質解放を求めることだ。イスラエル寄りの主張を押し付けるだけでは仲介役として不適任と言わざるを得ない。

 政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)なネタニヤフ首相は、今月末までに予算の承認を国会で得られなければ解散・総選挙に追い込まれるため、停戦をほごにすることで極右勢力を取り込んだとの見方が広がっている。民間人の命と引き換えに政権を維持しようとする姿勢は最大限の非難に値する。

 国際社会は米国に仲介役としての責務を果たすよう働きかけ、団結してイスラエルへの圧力を強め恒久的な停戦を実現させねばならない。