イスラエルがイランへの大規模空爆に踏み切り、両国は交戦状態に突入した。双方が強硬路線に突き進めば、周辺国や米国を巻き込んだ全面戦争に発展しかねない。
中東の危機を高めるイスラエルの暴挙は許し難い。国際社会は結束し、イスラエルに自制を求め、イランには報復を思いとどまるよう説得するべきだ。一刻も早く停戦を実現させねばならない。
イスラエル軍の攻撃開始は13日だった。昨年の4月と10月にも空爆を行ったが、範囲は限定的だった。今回は全土へ拡大させ、核施設や石油施設も標的に加えた。軍司令官ら要人も複数殺害した。イラン側の犠牲者は200人超に上る。
一方、イランもこれまでにない規模で反撃し、迎撃をかいくぐったミサイルなどでイスラエル都心部に被害が出ている。イスラエル側の死者は20人を超えた。
イスラエルのネタニヤフ首相は、イランが核武装する「差し迫った脅威があるため先制攻撃した」と正当化する。しかし、自衛権の行使とは認められず、国際法と国連憲章に違反している疑いが濃厚だ。
中でも見過ごせないのは核施設への攻撃である。ウラン濃縮施設などが破壊された。イラン当局は外部汚染はないとしているが、周辺住民が放射性物質で健康被害を受ける可能性がある。国際原子力機関(IAEA)は「いかなる状況でも核施設が攻撃されることは決して許されない」と非難声明を出した。
米国は4月以降、核兵器保有阻止のためイランと協議し、6月15日に高官協議を予定していた。イスラエルの攻撃で協議は中止され、再開の見通しは立たない。
歯止め役になるべき米国の対応は理解に苦しむ。トランプ米大統領はイスラエルから事前に攻撃の連絡を受けながら、結果的に黙認した。そればかりか「全てを失う前に取引を」とイランに譲歩を要求する。ネタニヤフ首相は国家転覆すら示唆している。イスラエルを増長させた米国の責任は極めて重い。
世界や日本の経済への影響も懸念される。世界有数の石油埋蔵国への攻撃は、エネルギー価格高騰のリスクを伴う。イランは石油タンカーが往来するホルムズ海峡の封鎖を検討しているとされ、実行に移せば1970年代の石油ショックのような混乱が再来しかねない。
石破茂首相は「到底容認できない。強く非難する」と異例の厳しい言葉でイスラエルを批判した。日本はイランと友好関係を築き、核協議も独自に続けてきた。各国と連携してイランと米国との核合意を後押しする必要がある。