米国の短慮で中東の混迷は一層深まった。自由主義陣営の超大国にあるまじき暴挙に強く抗議する。

 イランとイスラエルの戦闘を巡り、米国はきのう、イランの核施設3カ所を空爆した。最重要とされる中部フォルドゥの地下にあるウラン濃縮施設には、特殊貫通弾(バンカーバスター)を投下した。トランプ大統領は演説で「完全に破壊し、核の脅威を取り除くため前進した」と強調した。

 一方、イラン外務省は米国による攻撃を国際法違反と非難し、「全力で抵抗する権利がある」と声明で訴えた。報復は必至で、中東にある米軍施設や大使館を標的にする可能性が高い。レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派などの親イラン勢力も加わり、周辺国を巻き込む全面戦争に発展する恐れがある。

 国際社会は結束して自制を強く求め、外交努力によって停戦の道筋を付けなければならない。米国はただちに軍事介入をやめ、イスラエルを強くいさめるべきだ。

 イスラエルはイランの核開発阻止を目指し、これまでも核科学者らの暗殺に関わったとされる。今回も中部ナタンズの核施設などを攻撃していたが、地下80~90メートルにある施設を破壊する兵器を持たず、米軍の加勢を強く求めていた。

 米国は2003年、誤った情報に基づきイラク戦争を主導し、中東の不安定化を招いた。イスラエルが仕掛けたこのたびの戦闘にも、核兵器開発の根拠を示さず加担した。

 トランプ氏は第1次政権下の18年にイランのウラン濃縮制限に関する合意から一方的に離脱した。第2次政権では一転して対イラン協議を再開させ、今月19日には2週間以内に核放棄を決断するよう求めていたが、期限を待たず自らほごにした。

 イランは「地下施設が一部損壊したが、住民に危険はない」と核開発を続ける意向を強調した。米国は核兵器開発を加速させるリスクを高めたことを肝に銘じるべきである。

 トランプ氏は、イランが和平に応じなければ「将来の攻撃はさらに強大になる」と威嚇し、イスラエルのネタニヤフ首相も「力による平和を」と歓迎した。しかし、覇権主義こそが今の世界情勢を危機にさらしている元凶だ。

 今後の停戦や核に関する協議は、中立的な第三国が仲介し、国際協調下で行う必要がある。イランだけでなく、イスラエルの核兵器開発の実態も解明してもらいたい。

 日本は原油輸入の9割以上を中東に依存する。イランが示唆するホルムズ海峡の封鎖が実行されれば、影響は関税引き上げの比ではない。石破茂首相の行動力も問われる。