日米の関税交渉が長びいている。カナダでの先進7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせ今月16日に行われた石破茂首相とトランプ米大統領の会談は関税で合意に至らなかった。担当の赤沢亮正経済再生担当大臣は米国側と7回目の交渉に臨む。

 関係者によると、自動車への追加関税を巡って意見が対立したという。首脳会談で一定の成果を出すことを目指した日本側の思惑は外れたが、予想できた結果ではある。

 米政府と4月から交渉を重ねた赤沢担当相は、サミット直前になっても「五里霧中」「一致点はまだ見いだせてない」と述べていた。合意ありきで首脳会談に臨めば日本は大幅に譲歩せざるを得なかっただろう。

 米国はほぼ全ての国に一律10%の相互関税を、さらに日本には14%の上乗せを決めた。自動車などにも25%の追加関税を課すとした。そのまま実行されれば、国内景気の低迷は必至である。首相はかねて米国の高関税政策を「国難」と表現している。あくまで関税撤廃を求め毅然とした姿勢で交渉に臨むべきだ。

 米国が求める対日貿易赤字の解消に対応して、日本は米国産大豆やトウモロコシの輸入拡大、輸入自動車の審査簡素化の拡充などを交渉カードとする方針だ。しかしこれで687億ドルもの対日赤字が大きく減るとは考えづらい。

 現在、米国は相互関税の上乗せを一時停止しているが、その期限が7月9日に迫っており、政府内には関税撤廃でなく税率引き下げで合意を探る意見も出ている。一方、米政府の高官からはここにきて期限を延長する可能性に触れた発言が相次いでおり、日本側から合意を急ぐ必要はないだろう。

 交渉の追い風になり得るのが、日鉄によるUSスチール買収を米国政府が認可した点である。

 当初、トランプ大統領は反対していたが、日鉄側が投資額を大幅に引き上げたことから、経済効果を見据えて態度を変えた。貿易赤字だけに着目せず、日米の経済関係全体を強化し双方を利する提案ができれば、米国も有権者に合意のメリットを説明しやすくなるのではないか。

 忘れてならないのは、そもそも高関税政策が自由貿易の原則に反している点だ。日本のように交渉カードを持たない新興国や途上国は、米国がつきつけた高関税をのまざるを得ない。世界の格差を広げ、ブロック経済による対立も現実味を帯びる。

 米国が関税交渉で最終合意に至ったのは英国だけで、そのほかの国や地域とは交渉が続いている。日本は各国とも連携して、米国に不公正な政策の撤回を迫る戦術を検討する必要がある。