経団連の新会長に、神戸市出身で日本生命保険前会長の筒井義信氏が就き、新体制が始動した。長い歴史の中で、金融機関からの就任は初めてだ。
米トランプ政権の高関税政策の先行きが見えない中、個人消費を増やすため高水準の賃上げを続けられるか手腕が問われる。少子高齢化を背景に日本経済の成長力が鈍り、国民の将来不安が高まっている点を見据えれば、社会課題を解決して成長につなげる突破力も求めたい。
近年の経団連は製造業振興やエネルギー確保といった経済界が関心の強い分野に加え、地球環境保護や選択的夫婦別姓制度など社会課題を意識した分野へ政策提言を広げている。
筒井会長が政府に「税・社会保障一体改革推進会議」を設けるよう働きかける意向を示したのも、そうした流れの一環といえる。生保最大手で社長、会長を歴任し、社会保障制度に通じた蓄積を生かしてもらいたい。
実行力が問われるのは、選択的夫婦別姓制度だ。
経団連は昨年6月、結婚で改姓が義務付けられる現行制度は他の国で理解されにくく「ビジネス上のリスクとなり得る」として制度の早期実現を求めた。しかし今年の通常国会では立憲民主党と国民民主党が別姓を認める民法改正案を提出したものの、自民党が党内の意見をまとめきれず継続審議となった。
野党が多数を占めている現在の政治情勢では、経団連がこれまでのように与党とばかり親密な関係を保っていても展望が開けない。政策を実現させるには「財界総理」として、野党も含め多くの政党と是々非々の関係を探るしたたかさも必要なのではないか。
米国では、地球温暖化対策や多様性重視に背を向ける企業が現れ始めた。トランプ氏がこうしたテーマに否定的な言動を繰り返しているからだ。
筒井氏は重点課題としてイノベーション▽税・財政・社会保障の一体改革▽地方創生▽労働改革▽経済外交-の5分野を掲げた。世界経済に「トランプ流」の悪しき風潮が広まるのを食い止めるため、これまで経団連が取り組んできた温暖化対策や多様性重視にもさらに力を入れる必要がある。