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 敵対する勢力を無力化するために手段を選ばず攻撃し、民間人の犠牲を全く顧慮しない。国際法を無視した独善的な振る舞いが、これ以上許されるはずはない。

 イスラエルがイスラム組織ハマスとの戦闘を続けるパレスチナ自治区ガザで、人道危機が最悪の状況となっている。国連によると、200万超の人口のうち47万人が飢餓にひんし、9万人近い母子が緊急治療を必要としている。

 2023年10月の戦闘開始以来、ガザの死者は5万9千人を超え、3割近くが子どもだ。建物は4分の3が破壊された。国際社会はイスラエルへの圧力を強め、即時停戦と住民救済を実現しなければならない。

 深刻な飢餓の広がりは人為的なものだ。イスラエルは今年1月、ハマスと内通しているとして国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のガザでの支援活動を禁じ、米国とともに設立した「ガザ人道財団」による支援に切り替えた。

 だがハマスによる略奪を防ぐとの口実で支援物資の配給所は南部に偏り、数も少ない。食料を求め殺到する市民への銃撃も相次ぐ。事態は改善せず、配給を利用して住民を強制的に移動させ、ハマスの掃討を図っていると言わざるを得ない。

 米国はガザで物資を届ける「人道回廊」の設置に意欲を示すが、イスラエルの意に沿った内容では不十分なのは明らかだ。直ちに国連主導の供給体制に戻してもらいたい。

 米国の仲介による停戦協議も、イスラエルが恒久停戦拒否の方針を変えず、一向に進展しない。ガザ市民とイスラエルから連れ去られた人質の犠牲をこれ以上出さないことを最優先に、合意を急ぐ必要がある。

 イスラエルの暴走は、ガザでの戦闘にとどまらない。

 今月に入り、アサド政権崩壊後に民族や宗教・宗派間の対立が続くシリアへ軍事介入し、多数の死者を出した。親イスラエルの少数派イスラム教ドルーズ派を保護するためと主張するが、首都ダマスカスの中心部を空爆する理由にはなるまい。

 国境を接するシリア南部の「非軍事化」が目的とされるが、米国などは暫定政府を支持し、情勢の安定化に動いている。攻撃は混迷を深めかねず、米国は自制を促すべきだ。

 核武装阻止を目的としたイランとの戦闘は停戦後1カ月がたったが、今も火種はくすぶっている。

 米国も加勢し地下核施設を攻撃したが、イランは核開発の意思を捨てていない。とはいえ、政権転覆すら示唆する攻撃は国際法への挑戦であり、正当化されるわけではない。

 イスラエルと米国は誤りを認め、国際秩序を守るよう強く求める。