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 甲子園球場で開催されている全国高校野球選手権大会に出場し、1回戦で勝利していた広島代表の広陵高校が、2回戦への出場を辞退した。部内で起きた暴力に関する情報が交流サイト(SNS)で拡散した結果、生徒らへの中傷などが激しくなり、大会運営にも支障を来したのが理由だという。

 不祥事による開幕後の出場辞退は100年を超える大会史の中でも初めてで、前代未聞の事態である。

 広陵高によると、暴力があったのは今年1月で、寮での禁止行為をした1年生が2年生4人に胸や頰をたたかれたり胸ぐらをつかまれたりしたという。

 暴力が許されないのは言うまでもない。同校は春の甲子園で優勝3度を果たした強豪だ。「学校教育の一環」という高校野球の原点に立ち戻り、再発防止の取り組みを徹底してもらいたい。

 暴力事案の発生後、広陵高は日本高野連にその内容を報告し、3月に厳重注意処分を受けた。ところが大会直前にこの件に関するSNSの投稿があり、同校と高野連は経緯を説明せざるを得なくなった。処分を発表しなかったのは、高野連の基準に従ったためと弁明した。

 だが、警察に被害届が出されており、決着したとは言い難い。SNSには別の被害を訴える投稿もあり、第三者委員会で調査していることが分かった。監督らの暴行を指摘する情報もある。名門野球部の中に暴力を容認する風潮はなかったか。被害者への対応は十分だったのか。広陵高は部の体制を見直す方針だが、それには実態の解明が欠かせない。

 問題が起きていながら大会出場が決まった経緯に対しては、SNSで「隠していた」「矮小(わいしょう)化している」などの批判が強まった。広陵高は辞退を決めたものの、その判断についても識者や高校野球ファンから「1回戦の試合前に辞退すべきだった」などの厳しい声が出ている。

 同校と高野連は、事案が発生した時点から今に至るまでの判断と対応の問題点について、検証を尽くさなければならない。結果は他校での暴力防止にも生かせるはずだ。

 見過ごせないのは、学校などを批判する言動が度を越している点だ。SNS上で、暴力に関与した選手らを「特定」したと投稿したり、その家族とされる写真を拡散したりする動きがあった。生徒が登下校時に追いかけられたほか、寮の爆破予告もあり、関係のない生徒の安全も脅かされているという。

 爆破予告などは犯罪行為であり、不当な誹謗(ひぼう)中傷は法的責任を問われかねない。批判する側も自らの行為を省みる必要がある。