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 クマによる被害が相次いでいる。北海道では今月、知床の羅臼岳に登山中の男性がヒグマに襲われて亡くなったほか、7月には福島町で新聞配達員の男性が死亡した。長野県や岩手県でも6~7月にクマによる死亡事案が起きた。兵庫県内でも5月、豊岡市で70代の男性がクマに手などをかまれ、重傷を負った。同市内での4、5月の目撃件数は前年比約2倍だった。出没情報は県南部を含む各地から寄せられている。

 環境省によると、昨年度の人的被害は全国で82件(85人)、本年度は7月末までで48件(55人)あった。

 農作物が荒らされるなどの事例も多い。宮城県では7月、クマの目撃情報があり、女子ゴルフの競技が中止された。影響は各方面に及んでおり、対策は待ったなしだ。

 市街地に出没し、人を恐れない「アーバンベア」も増加した。昨年、餌になる木の実が少なかったことなどが影響しているとの見方がある。山間部に限らず、人が襲われる危険性は格段に高まっている。住民の安全確保が喫緊の課題である。

 各地の自治体はわなの設置などの対策を進める。また改正鳥獣保護管理法の施行で、9月から、市街地でクマなどに発砲する「緊急銃猟」が自治体の判断で可能になる。警察官の命令を待たずに撃てるため、迅速な被害対応が期待される。

 ただし、人身事故などは絶対に起こしてはならない。環境省は法施行を前にガイドライン(指針)を公表した。自治体はハンターなどと発砲についての計画を立て、通行制限や住民の避難などを実施するという。国と自治体が連携し、安全対策を徹底してもらいたい。

 銃猟を依頼されるハンター側からは「責任が生じないようにしてほしい」との懸念の声も上がる。将来的には、自治体などが専門人材を育成する仕組みが求められる。

 国内のクマの生息数は、絶滅した九州や絶滅の恐れがある四国を除き、増加傾向にあるとされる。耕作放棄地の拡大などにより、生息域が広がっているとも言われる。

 適正にクマを管理するには、地域ごとの個体数やその変化、生息範囲や生息環境の状態などを把握する客観的なデータが欠かせない。国が主体となり、従来にも増して正確な全国規模の調査を進めてほしい。

 人とクマとの接点を減らす対策の一つに、すみ分けを図る「ゾーニング」がある。植物を刈り払うなどして、生息地と集落などの間に、見通しのよい「緩衝地帯」を設ける。クマを引き寄せる放置果樹などの管理強化も効果があるとされる。こうした工夫を積み重ね、人間とクマが共生できる方法を探る必要がある。