パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスとの戦闘を巡り、イスラエル軍は中心都市、北部ガザ市の完全制圧に向け予備作戦を始めた。10月上旬までに住民を退避させ、地上侵攻を大幅に強化する内容とされる。ネタニヤフ政権内にはガザ地区全域の制圧を求める意見もあり、際限なく戦火が拡大する恐れがある。
2023年10月の侵攻開始以来、ガザの死者は6万2千人を超え、物資の搬入制限で餓死する子供らも増えている。推定約100万人が避難生活を送るガザ市での作戦が本格化すれば、人道危機が一層悪化するのは必至だ。国際社会は結束を強め、強行を阻止しなければならない。
ハマス側は仲介国カタールなどが示した、60日間の停戦と段階的な人質解放を進める案に合意したとされる。イスラエル側もただちに提案を受け入れ、恒久停戦に向けた協議を始めてもらいたい。
国際社会はこれまでになくイスラエルへの批判を強め、パレスチナ国家承認の動きが進む。親イスラエルだった先進7カ国(G7)でもフランス、英国、カナダが9月の承認方針を表明した。
日本は米国への配慮から明言を避けている。国家承認によってただちに人道危機が改善されるわけではないが、強い圧力を形にする意義はある。欧州各国などと緊密に連携し、危機回避に向けたあらゆる方策を追求すべきだ。
見過ごせないのは、イスラエル政府が「対抗措置」としてパレスチナ自治区のヨルダン川西岸への大規模な入植計画を承認したことだ。パレスチナ人の住民を追い出し、住宅約数千戸を建設する計画だが、国際法違反として国際社会の強い反発を招き、長年凍結されていた。極右政党を率いる閣僚は「パレスチナ国家は消し去られる」との声明を出した。
1993年のオスロ合意で打ち出された、パレスチナとイスラエルが共存する「2国家解決」を根底から覆す暴論であり、断じて容認できない。パレスチナの和平は、両国家の共存が唯一の道であることを再認識しなければならない。
鍵を握るのは、イスラエルの後ろ盾、米国の対応だ。最も多く武器を供与しガザ侵攻を支えてきた。極端な擁護姿勢を改めて人道状況の改善を強く求め、従わないならば武器提供の停止も検討する必要がある。
トランプ米大統領は、戦争犯罪の疑いでネタニヤフ氏に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)への制裁を強化するなど、国際秩序をないがしろにする態度を取り続けている。本気でノーベル平和賞を望むのならば、ガザの人道危機に背を向けることはありえない。