国際協力機構(JICA)は、日本の自治体とアフリカ諸国との交流促進を目的とした「ホームタウン」事業を撤回した。
誤情報やデマによる混乱が理由というが、極めて残念だ。JICAは実現に向け、粘り強く理解を求めるべきではなかったか。多国間協調の重要性は一層増している。市民レベルの国際交流を深めるためにも、今回の事業取りやめを、あしき前例としてはならない。
日本は30年以上前からアフリカ支援に取り組み、信頼関係を築いてきた。ホームタウン事業は、今年8月に横浜市で開かれた9回目のアフリカ開発会議(TICAD)に合わせて発表された。
千葉県木更津市などの国内4市をアフリカ諸国のホームタウンに認定し、帰国を前提とした人材の受け入れやイベントを開くのが主な内容である。アフリカの課題解決と日本の地方活性化を目指していた。
ところが、交流サイト(SNS)で「移民が増える」といった誤情報が広がり、4市に抗議が殺到した。事業に参加予定だったナイジェリア政府が「特別なビザ(査証)制度を日本が創設する」と誤った声明を出したことなどがきっかけだ。
外務省やJICAは移民の受け入れではないと説明したが、騒ぎは収まらず、街頭での抗議活動まで起きた。事業撤回に追い込まれたJICAは「自治体の日常業務にも影響を与え、有益な形での交流の環境が損なわれた」と会見で述べた。
相手国政府との意思疎通や擦り合わせは十分だったか、国内で分かりやすい情報発信に努めていたか。JICAは原因究明と検証をしてほしい。その上で萎縮せずにアフリカとの交流に取り組む必要がある。
外国との交流は、国際社会における日本への信頼を得るための長期的な投資と言える。経済成長の著しいアフリカ諸国との関係強化は、日本の国益にもつながろう。
一方、外国人への差別や憎悪をあおる言動は断じて容認できない。誤った情報によって排外主義的な主張が勢いを増せば、地域社会の不安定化につながりかねない。デマを拡散しないよう、市民一人一人が注意することも重要である。
これまで自民党政権は外国人労働者の受け入れを拡大し、永住や家族帯同に道を開いてきた。にもかかわらず、慎重派に配慮し「移民政策ではない」との苦しい説明に終始している。そうした矛盾が、外国人に対する漠然とした不安を抱く人の増加を招いてはいないだろうか。
外国人との共生の在り方を示し、国民の理解を得る努力が不可欠だ。それは政治の責任である。