悪質な運転で人を死傷させたドライバーに厳罰を科す場合、どこを基点に線引きするべきか。法相が諮問する法制審議会の部会が、自動車運転処罰法が定める危険運転致死傷罪の要件のうち、速度超過や飲酒などの基準値を示す「たたき台」を作成した。被害者や家族の意向も踏まえて熟議を重ね、国民が理解し納得できる基準としなければならない。
現行制度は、速度超過では「進行の制御が困難」、飲酒では「正常な運転が困難」と定めている。しかし抽象的なため、適用範囲が限定される一因となってきた。基準の明確化により、捜査や裁判での安定的な運用につなげる目的がある。
部会の基準案は、危険運転致死傷罪の適用について飲酒と速度の具体的な数値案を複数示した。
速度では、最高時速の超過幅を①60キロ超の道路なら50キロ、60キロ以下なら40キロ②それぞれ60キロと50キロ-を超えると危険運転とする2案だ。
2021年に大分市で起きた死亡事故では、車が法定速度の3倍を超える時速194キロで交差点に進入したにもかかわらず、検察は当初、「制御困難といえない」として危険運転の適用を見送った。基準となる具体的な数値が決まれば、誰もが「異常な速度」と感じる運転による事故の論点が絞りやすくなるはずだ。
悩ましいのは危険運転を適用する速度超過の下限をどこで引くかだ。科学的なデータを基に議論を重ね、数値設定の根拠を示すことで透明性を確保することが求められる。
飲酒に関しては、血液1ミリリットルまたは呼気1リットル中のアルコール量が①血液0・5ミリグラム、呼気0・25ミリグラム以上②それぞれ1・0ミリグラム、0・5ミリグラム以上-とする2案を提示した。
通常の酒気帯び運転は呼気中0・15ミリグラム以上が基準値だ。死亡事故の遺族らはこの数値を基準とするよう求めたが、部会は大幅に上回る数値を示した。最高刑が拘禁刑20年という刑罰の重さを考慮したとされるが、「飲酒運転は故意犯」とする遺族の主張にも説得力がある。
速度超過や飲酒による危険度は個人差や道路状況によって異なる。部会は基準値を下回っても「正常な運転が困難」な場合は適用対象としたが、「正常ではない」とはどんな運転を指すかも定める必要がある。
公平で適切な処罰には、通常の過失致死傷罪と危険運転との中間の刑を設けたり、過失致死傷の法定刑の上限を引き上げたりする方法もある。さらに議論を深めてほしい。
罰則強化だけでなく、運転代行サービスの普及などの抑止策を充実させることも不可欠だ。悲惨な事故を繰り返さないために、社会全体で取り組みを強化したい。