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 斎藤元彦兵庫県知事の告発文書問題を県議会調査特別委員会(百条委)委員として追及し、1月に死亡した元県議、竹内英明氏=当時(50)=の名誉を傷つけたとして、県警は名誉毀損(きそん)の疑いで政治団体「NHKから国民を守る党」党首、立花孝志容疑者(58)を逮捕、送検した。遺族が6月に告訴していた。

 竹内氏の死の前後に街頭演説や交流サイト(SNS)で「警察の取り調べを受けている」「逮捕される予定だった」などと虚偽の発言を繰り返した疑いが持たれている。県警は「表現の自由」との兼ね合いに留意しつつ、発言に至った経緯や意図を解明してほしい。

 竹内氏の捜査情報を巡っては今年1月、当時の県警本部長が「事実無根」と全否定した。しかし、その後も「参考人聴取は受けていた」などの誤情報が流れ、立花容疑者の逮捕後に県警幹部が改めて否定した。

 虚偽の情報でもSNSなどで流布されれば名誉回復は難しい。しかも死者に対する名誉毀損罪は立件のハードルが高いとされる。県警が立件に踏み切ったのは、根拠不明の情報の安易な拡散に対する社会への警告とも言える。竹内氏や家族の尊厳が回復されることを願う。

 立花容疑者は昨年11月の兵庫県知事選に立候補し、不信任決議を受け知事を失職した斎藤氏を応援する「2馬力」選挙を展開した。竹内氏を事実無根の告発文書で知事を陥れた「黒幕」だと名指しで批判し、SNSなどで誹謗(ひぼう)中傷が広がるきっかけをつくったとされる。竹内氏は斎藤知事の再選翌日に県議を辞職し、今年1月に自宅で死去した。

 告発文書を巡っては今年3月、知事が設置した第三者調査委員会が、知事のパワハラなどを認定し正当な公益通報だったと結論付けた。立花容疑者の選挙中の竹内氏に関する発言の違法性も今後の焦点になる。

 立花容疑者は、百条委委員長の奥谷謙一県議に関し「告発文書を作成した元県民局長が自死した理由を隠蔽(いんぺい)した」などと発言し名誉を傷つけた疑いなどでも書類送検された。県警は捜査を尽くし、民主主義の基盤を損ねた2馬力選挙の全容解明を目指してもらいたい。

 立花容疑者の逮捕について知事は「コメントは控えたい」と話すにとどめた。選挙中に飛び交った誹謗中傷も「把握していない」とし、選挙運動は正当だったと主張するが、立花容疑者の言動を自身と無関係とするのは無理があるのではないか。

 捜査結果にかかわらず、斎藤知事自身も2馬力選挙の実態や妥当性への認識を明らかにする必要がある。説明責任を果たさなければ、選挙の正当性が揺らぎかねない。