播磨灘中央部の海面に絶え間なく気泡が浮かび上がる-。15年前に見つかった不思議な現象について、海上保安大学校(広島県)と神戸大、香川大、高知大の研究チームが本格調査に乗り出した。泡の中にメタンやヘリウムなどが高濃度で含まれていることが判明し、このたび海底の噴出点にある泥や気体、水の採取に成功した。播磨灘の海底地層には未知の領域が多く、謎の解明に迫る。(安藤文暁)
■水深40メートルからポツポツ…
気泡が現れるのは、香川県・小豆島から東約10キロにある兵庫県の海域。海原のわずか2~3メートル四方の水面に、直径1センチ前後の泡がポツポツと浮き上がってくる。海水に変色は見られず、異臭も感じられない。
魚群を探知する水中レーダーで見ると、水深約40メートルの海底に平地が続く中、すり鉢状に3メートルほど沈んだくぼ地から、柱のように何かが立ち上る様子が映る。
研究チームを率いるのは、海洋科学を専門とする海上保安大学校の近藤文義教授(46)。地球化学や海洋生物学、堆積学の研究者8人で今年5月にサンプル採取を終え、それぞれが分析している。来年1月8日にオンライン報告会を開く。
❶動画「播磨灘で謎の気体 記者が確認」=2010年8月30日配信
■漁師の間で「気味悪い」
2010年、地元漁師の間で「気味が悪い」と話題になっているのを記者が知り、漁船で現場に同行したのがきっかけだった。「海が泡立つ瀬戸内『怪』」との見出しで8月31日付神戸新聞朝刊に掲載し、取材ルポを動画で公開すると、第5管区海上保安本部(神戸市)が現地を調査した。健康被害が出るような異変は確認されず、真相究明は急を要しないとされた。
それから8年後の18年、近藤教授が記事を見つけて調べ始める。香川大と共に気泡を分析すると、温室効果ガスのメタンを高濃度で含み、多様な成分が混ざり合っていることが分かった。「こんな複雑な気体がなぜ播磨灘で?」。解明には噴出点の泥や水の解析が欠かせず、関心を寄せた高知大、神戸大も加わった。
ただ、船は潮で流され、水面下40メートルの局地をピンポイントで捉えるのは至難の業だ。23年11月に水中無人探索機を導入し、さらに船の係留に工夫を加えて24年11月、ついに採取に成功。そして、泡が噴き出す映像も間近で撮影できた。
❷動画「謎の気泡 海保が調査」=2010年9月16日配信
■瀬戸内海ではありえない?
謎を巡っては、さまざまな推測が飛び交う。海底の泥炭層か、あるいは人が沈めたものから出ているとの見立てもあった。香川大の多田邦尚名誉教授(65)=海洋環境学=は「メタンガスは猛暑の影響で泥が発酵して出ることはあるが、瀬戸内海ではありえない。全く別のプロセスがあるのではないか」と話す。
一方、気泡の成分から海底温泉の湧出ではないか-との指摘もあり、研究チームは近隣の温泉成分との比較分析も行う。
近藤教授は「気泡は泥炭や火山由来など単純な成分ではない。地震に関わる地盤活動が何らかの形で現れている可能性も否定できない」と語る。「調査を始めて7年近くがたつ。研究者が集まって一人ではできなかった調査ができるようになった。各専門分野の報告から気泡の噴出を引き起こす原因を突き止めたい」
























