国民生活の基盤となるコメ政策がわずか3カ月で百八十度転換した。
高市政権が10月に発足して早々、鈴木憲和農相はコメの「需要に応じた生産」を打ち出し、小泉進次郎前農相がコメ高騰対策として掲げた備蓄米放出や「需要に応じた増産」方針に否定的な考えを示した。
農林水産省は2026年の主食米の生産目安を需要見込みの最大量に合わせて711万トンに設定した。前年比2%減となり、実質的に「減産」への誘導だ。「令和の米騒動」を受け石破茂前首相は7月に増産方針を掲げたばかりで、唐突な転換は理解に苦しむ。
鈴木農相は「コメ価格はマーケットに任せる」としているが、生産調整によって値崩れを防ぐ意図がうかがえる。
忘れてはならないのは、今夏の深刻なコメ不足は国が需給の見通しを誤ったのが要因だったことだ。
24年の生産量予測は683万トンと需要見通しを上回っていた。ところが高温障害で実際に市場に出せるコメは減り、インバウンド(訪日客)による需要増もあり需給バランスが崩れた。そのことが、前政権のコメ増産方針につながった。
25年産は、障害を受けた粒が少ない1等米の比率が77%と昨年より改善しているが、今後も気候変動の影響は予測できない。生産量は多少の余裕を見込むのが、食料安全保障の点からも有益ではないか。
政府は経済対策として、地方自治体が自由に使える物価高対策の「重点支援地方交付金」を増額する。コメ購入に使える「おこめ券」の導入も想定するが、発券や配布にコストや手間がかかり、政権が掲げる「戦略的な財政支出」にそぐわない。コメ本体の値下がりにもつながらず、消費者負担の軽減効果は一時的なものにとどまる悪手と言える。
今年4月に閣議決定した食料・農業・農村基本法に基づく基本計画は30年のコメ生産を818万トンとする目標を掲げる。毎年3%ずつ増産しなければ達成は不可能だ。
鈴木農相は中長期的なコメの増産の必要性を認めつつ、「輸出促進などでそれに見合う需要をつくり出さねばならない」と指摘する。
だが農業者の高齢化が進み耕作放棄地も増え続ける現状をみれば、今から増産を掲げて新規参入や生産の効率化を促さないと、基本計画の目標達成どころか、日本のコメ作りが持続可能なのかすら懸念される。
増産から減反へ、減反を見直す一方で転作も奨励と、戦後の農政は頻繁に変わり「猫の目」ともやゆされてきた。生産者が腰を据えてコメ作りに取り組める環境づくりこそ、農政の最優先課題である。
























