日本を舞台に幼い少女が人身取引された疑いが浮上した。重大な人権侵害は断じて許されない。
20代の母親の紹介を受け、12歳のタイ人少女を6~7月に個室マッサージ店で働かせたとして、経営者が労働基準法違反(最低年齢)の疑いで逮捕された。少女は60万円超の売り上げの全額を経営者に渡し、店と母親側が分け合ったとみられる。性的搾取が強く疑われ憤りを覚える。
しかし、日本には人身取引に厳正に対処できる法制度が未整備で、国際社会からも厳しい目を向けられている。政府は事態を深刻に受け止め、早急に対策を講じるべきだ。
少女は33日間で約60人の客への性的マッサージを強要されたとみられる。自ら東京出入国在留管理局に助けを求め、人身取引の被害者として保護された。「家族の生活のために」と我慢して接客したという。幼い心に刻まれた不安や屈辱はいかほどだっただろうか。
母親は少女を置き去りにして出国したが、台湾で売春に関わった容疑で拘束された。警視庁も児童福祉法違反の疑いで母親の逮捕状を取っている。内外の関係機関と協力し、取引の経緯やあっせん組織の実態などを徹底的に解明してもらいたい。
2000年に国連で採択された議定書は、性的搾取や強制労働を目的に暴力や脅しで人を獲得する行為を人身取引として禁じる。18歳未満は手段を問わず該当する。
日本は17年に議定書を締結し実態把握を進めるが、加害者の処分が執行猶予や罰金刑にとどまり不十分だと国連の自由権規約委員会などから指摘されている。政府が昨年に確認した人身取引の被害者は66人で、うち8人が外国人だったとするが、これらは氷山の一角の恐れがある。
05年には刑法を改正し人身売買罪を新設したが、要件である「支配の確立」の立証が難しいとされる。なぜ適用されにくいかをつぶさに検証し、10年以下の拘禁刑の罰則引き上げも視野に、必要な法整備を急がなければならない。人身取引の救済窓口も明確にすべきだ。
日本では売春防止法で売買春が禁止されているが、性的サービスを買う側には罰則がない。再発防止のためには、買う側の責任も明確にする必要があるのではないか。
売春が黙認されてきた背景にも目を向けたい。貧困や虐待をきっかけに性産業に携わる事例は少なくない。少女の母親も経済的に追い詰められていたとの報道がある。
売る側の取り締まりを強化するだけでは真の解決にはつながらない。安心して生活できるセーフティーネットにほころびがないか、現状に即した対策が欠かせない。
























