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 1989年に導入され、過去3度にわたり引き上げられた消費税が、きょう公示される衆院選で転機を迎えようとしている。野党のみならず、長年政権を担ってきた自民党も初めて税率の引き下げを公約に掲げたからだ。

 物価高に賃金上昇が追いつかず、負担増にあえぐ国民生活の支援策は今回選挙の最大の争点となる。だが消費税収は社会保障の貴重な財源であり、2026年度予算案では約26・7兆円と税収全体の3割を占める。仮に飲食料品の消費税をゼロにすれば年5兆円規模の穴があく。

 確実な財源を定めず、目先のプラス面ばかりを強調するなら、しわ寄せは現役世代だけでなく次世代にも及ぶ。有権者は政党や候補者の主張を、厳しく見極める必要がある。

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 各党の公約によると、連立与党の自民と日本維新の会は現在8%の飲食料品の消費税率を2年間限定でゼロにすることについて「国民会議」での検討を加速するとした。野党の中道改革連合は食料品税率の恒久的ゼロを主張する。国民民主党は賃金上昇率が「物価上昇率プラス2%」を安定的に上回るまで全品目の税率を一律5%に引き下げる。共産党、れいわ新選組、参政党などは消費税自体の廃止を掲げる。一方、チームみらいは社会保険料の減額を優先すべきとしている。

 引き下げの対象や期間は異なるが、消費税減税の主張は大半の党が一致する。ならば選挙などせず国会で議論し速やかに実現してほしいと考える有権者も少なくないだろう。

 ただ自民の公約は実施時期を含め本当に引き下げるのか曖昧だ。高市早苗首相は消費税減税を「悲願」と述べ、きのうの党首討論会では「今夏までに国民会議で結論が出れば臨時国会に法案を提出できる」と26年度中の実施へ意欲を示したが、党内で十分に議論を重ねた上での発言なのかは疑問符がつく。

■皮算用の財源ばかり

 1千兆円を超える国債を抱える財政の窮状を意識してか、多くの党が赤字国債の発行は否定し、財源案も示してはいる。しかし現実味が乏しい皮算用ばかりが目につく。

 首相は、特定の政策目的で税を軽減している「租税特別措置」や各種の補助金を見直す方針を挙げる。実現には2年で10兆円分の穴埋めが不可欠だが、仮に租税特別措置をすべてなくせばどれだけの資金が確保できるのか。1度ゼロにした税率を元に戻すのは至難の業だが、その方策も示していない。

 中道は、政府系ファンドを創設し国の資産や基金を運用して利益を財源に充てるとの考えを示す。公約を運用益で賄うには100兆円単位の資金が必要となるが、安定的に確保できるのか。

 思い起こすのは、09年に当時の民主党政権が公約に掲げた「埋蔵金」である。予算の見直しや各種の剰余金を活用して十数兆円を生み出せると主張し、子ども手当や高速道路無料化などの政策に充てるとしたが、到底その額には達しなかった。

 税金の使い道に無駄がないか、不断にチェックする必要があるのは当然だ。しかし本当に生み出せるかどうか分からない巨額のお金を財源に見込み、国民に減税をアピールしようとするのは責任ある政治姿勢とは言い難い。

■政治劣化を懸念する

 そもそも消費税減税は物価高対策として適切なのか。法改正が必要で即効性に乏しく、有権者の痛みは一時的に和らぐに過ぎない。

 現在の物価高騰は、輸入原材料や人件費の上昇分が価格に上乗せされたことが主な要因であり、減税しても物価の引き下げに直接結びつかないのは明らかである。

 それどころか、減税によって物価高に拍車がかかるとも指摘される。財源が不確かなまま減税に踏み切れば財政状況を悪化させ、円に対する金融市場の信認が低下してさらなる円安を招き、輸入品の価格を押し上げる可能性がある。

 今回の衆院選で与野党がこぞって訴える消費税の減税・廃止は、問題の本質に向き合おうとせず、耳当たりのよいポピュリズム(大衆迎合)的な解決策でしかない。懸念されるのは、そうした風潮があらゆる政策の議論に広がって、政治が劣化していくことだ。

 国際情勢は混迷を深め、人口減少や少子高齢化など国内課題も山積する。日本が「失われた30年」から脱却して新たな成長の柱を見いだすために、腰を据えて将来像を考える政策論争を求める。