憲法は国の最高法規であり、全ての法令の上位に立つ。司法手続きが違憲ならば裁判をやり直すのが筋ではないか。熊本地裁の判断は不可解と言わざるを得ない。
ハンセン病とされた男性が隔離先の特別法廷で死刑判決を受け、1962年に執行された「菊池事件」の第4次再審請求審で、地裁は特別法廷での手続きは法の下の平等を定める憲法14条などに違反するとの判断を示しつつ「再審開始の理由にはならない」として退けた。
男性は52年、熊本県内の村の元職員を殺害したとして殺人罪などに問われた。公判は国立ハンセン病療養所菊池恵楓(けいふう)園の隔離施設などで開かれ、裁判官や検察官は白い予防服に身を包み、証拠物を箸でつまんで扱った。男性は無実を訴えたが、一審の国選弁護人は被告人質問や警察官への反対尋問もまともに行わなかったとされる。
ハンセン病施設での特別法廷を巡っては最高裁が2016年、「偏見、差別を助長した」として謝罪した。20年には菊池事件の国家賠償請求訴訟で違憲の判断が確定している。
地裁は「刑事訴訟法は憲法違反を理由とする再審開始を規定していない」との検察側の主張を全面的に採用した。だが、法に書かれていないからといって違憲状態が看過されるのは不合理極まりない。
今回の再審請求は、ハンセン病への差別や偏見の解消を願う元患者らの運動の高まりを受け、遺族が決断した経緯も軽んじてはならない。裁判官、検察官、弁護士の法曹三者が犯したハンセン病差別の負の歴史と向き合う契機とするべきだ。
弁護側は凶器と遺体の傷の不一致を示し、犯行の告白を聞いたとする親族の供述に疑問を投げかける新証拠を提出した。だが、地裁は再審開始の理由にならないとした。
再審請求審では無罪を言い渡すべき明白な証拠が求められ、開始のハードルは極めて高い。一方、再審が始まれば通常の裁判と同様に検察側も有罪の立証が求められる。「疑わしきは被告人の利益に」の原則に立ち再審で裁き直すべきではないか。
再審への司法の消極的な姿勢は今回に限らない。袴田巌さんの再審無罪などを受け、法相の諮問機関である法制審議会は再審制度見直しを議論しているが、裁判官や検察官の出身者は検察の異議申し立ての存続を求めるなど「法の安定」を重視し、早期救済の実現に背を向け続ける。
菊池事件はすでに死刑が執行され、再審が認められれば司法制度の根幹に影響を及ぼすことになる。だが、法の安定を真に目指すなら、法曹が自ら再審を求め、真相を明らかにする姿勢が欠かせない。























