政府は食糧法改正案を国会に提出した。コメを「需要に応じて生産する」と明記し、2024年に起きた「令和のコメ騒動」を受け石破前政権が打ち出した増産路線を、事実上撤回した。
コメ政策の中核は1970年代以降、価格維持のために生産を調整する減反政策だった。「需要に応じた生産」はその常とう句である。減反は2018年に廃止されたが、補助金で転作を促すことで実質的に維持されてきた。鈴木憲和農相は「需要を拡大し、これに応じた生産を推進する」と述べた。人口減で需要が落ち込めば、値崩れを防ぐため減反に踏み切る余地を残したと言える。
農業経営を政策面で支えることに異議はない。だが、高市政権下で十分な議論のないままの変更には首をかしげる。増産方針の撤回が妥当か、与野党で丁寧に審議するべきだ。
「令和のコメ騒動」は、訪日客の増加や南海トラフ地震臨時情報による買いだめで需要が急激に伸びた一方、猛暑で売り物にならないコメが増えたのが要因となった。
そうした反省から、改正案は民間の取扱業者に対する定期的な在庫の報告や備蓄を義務づけた。しかし、文言からは稲作を政府が統制するとの前時代的な発想がにじむ。仮に需要を精密に予測できたとしても、生産量に反映させるのなら結局は政府による調整と変わらない。
消費者の利益を守りつつ、農業者が安定して稲作に取り組めるようにするには、コメの価格決定は市場に委ねるのが本筋だろう。併せて、農業者の意欲に応えるための直接補助を検討する必要がある。
直視すべきは農業者の急減だ。各市町村の「地域計画」によると、全国の農地の3割は10年後の後継者が決まっていない。増産を促して担い手を呼び込み、並行して消費や輸出の拡大、備蓄の積み増しなどで需要を伸ばす方が、主食の生産維持につながり食料安全保障の強化にも結びつくのではないか。
今後のコメ政策は、水田の大規模化を進め生産効率を高めることが一層重要になる。自動操縦などの先端技術を取り入れた農機が活用できるよう、設備投資への支援も要る。
高齢の担い手が多い中小規模の水田についても、集約などで円滑に引き継ぎ、耕作放棄地の増加に歯止めをかけなければならない。多様な担い手を支える視点が欠かせない。
農業政策は今回のような路線変更を繰り返し、「猫の目」とも例えられる。これでは現場は振り回されるばかりだ。腰を据えて農業に取り組む新たな担い手を増やすために、政府は中長期的な視野で政策を練り上げるべきである。























