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 乗客106人と運転士が死亡し、493人が重軽傷を負った尼崎JR脱線事故から21年が過ぎた。最愛の家族を亡くしたり、後遺症を負ったりした被害者の苦しみは今も続く。JR西日本は、悲惨な事故を二度と起こさない決意を新たにしなければならない。

 大学に行く途中に事故に遭い、大破した先頭車両から22時間後に救出された林浩輝さん(40)は、体験を母校の学生らに話し続けている。

 過酷な現場で救出に当たった関係者への感謝を胸に刻み、仕事も記憶継承の活動もひたむきに取り組んできた。だが無理がたたって体調を崩し、いったん退職せざるを得なかった。

 今年、再び前を向いたのは「自分は生かされた」との強い思いからだ。事故現場で治療した医師と約20年ぶりに再会し、25日には初めて慰霊施設「祈りの杜(もり)」での追悼式典に出席した。

 加害企業のJR西は、林さんら一人一人の深い思いをくみ続ける責務がある。

 JR西は昨年12月、事故車両の保存施設を大阪府吹田市に完成させた。損傷の激しい1~4両目を含め、事故の惨状をありのままに伝える施設だ。

 一方で「大切な人が最期を迎えた車両を興味本位で見られたくない」との声に配慮し、対象は遺族や負傷者、運輸事業者の安全担当者らに限っている。

 JR西によると、今年3月末までに遺族の約4割、負傷者の約1割が訪れた。「事故に向き合う姿勢を感じた」などの意見もあった。その評価に恥じない安全対策を進める必要がある。

 2月には、神戸市を含む全国の鉄道大手31事業者による研修を受け入れた。保存施設で得られた教訓を意識改革に生かす取り組みも各社で広がっている。

 JR西の体質改善も問われる。脱線事故では日勤教育など懲罰的な企業風土が問われたが、その後も2023年の大雪で京阪神地区の列車が立ち往生した問題を巡り、当時の役員の激しい叱責(しっせき)がパワハラと認定された。重く受け止めるべきだ。

 将来的には遺族らの意向に配慮しながら、施設の一般公開を目指してほしい。全ての人が教訓を胸に刻み、交通の安全を誓い合う場にしてもらいたい。