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 きょうは「みどりの日」だ。自然に親しみ、その恩恵に感謝するとの趣旨で設けられた。緑まぶしい季節のこの日に、私たちを取り巻く自然環境について考えてみたい。

 地球上には、人間に知られているだけで約175万種の生き物が存在し、未知のものを含めると約3千万種に及ぶと言われる。個々の生物は密接につながり、互いに影響し合っている。この豊かな生命の在り方を「生物多様性」と呼ぶ。ところが人間による環境破壊や乱獲、地球温暖化などの結果、生物多様性はかつてない危機に直面している。

 国際自然保護連合(IUCN)が2024年に公表した「レッドリスト」では、絶滅危惧種が1年前と比べて約2300種増え、4万6300種を超えた。過去50年間の絶滅は、過去1千万年平均の少なくとも数十倍の速度で進んでいるという。現状は深刻と言わざるを得ない。

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 昨年2月、国連の生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)の再開会合がローマで開催された。1993年に発効した同条約に基づくもので、2022年のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」の進捗(しんちょく)状況の評価などを巡る議論があった。

 同枠組みでは、30年までの23項目の国際的な目標が定められた。その一つが、世界の陸域と海域の少なくとも30%を健全な生態系として効果的に保全するというものだ。これは「30by30」と呼ばれる。

 ただ環境省によると、24年時点の国内の保護地域は陸域で20・8%、海域で13・3%にとどまる。二つの目標、とりわけ海域の30%保全を実現するのは容易なことではない。

 自然再興に向けて

 同条約に沿い、日本は1995年に生物多様性国家戦略を策定した。現在の第6次戦略では、自然を回復軌道に反転させる「ネイチャーポジティブ(自然再興)」という理念を掲げ、その実現に向けた社会の変革を主眼の一つにした。COP15の議論を踏まえた戦略で、国際社会の危機感を反映した内容と言える。

 生態系の健全性回復をはじめ、持続可能な農林水産業の拡大などによる「ネイチャーポジティブ経済」の実現、生物多様性に配慮した生活・消費活動の推進(一人一人の行動変容)などを基本戦略にしている。

 施策は多岐にわたるが、かけ声だけでは実効性を伴わない。昨年の内閣府の世論調査では、環境保全が「経済発展につながる」「必ずしも経済発展を阻害しない」との回答が7割を占めた。一方で、生物多様性に関する認知度は決して高いとは言えない。国民の理解を得て、取り組みを着実に進める工夫が求められる。

 国家戦略でも、30by30をネイチャーポジティブ実現への鍵とする。環境省は国立・国定公園などの保護地域を広げるほか、企業や個人、自治体などが保全する地域を「自然共生サイト」として認定する。豊岡のコウノトリ育む水田や里山、神戸の須磨海岸など各地で認定が増えているものの、これだけで目標達成は難しく、さらなる施策が必要だ。

 重要な地域の連携

 兵庫県も国家戦略に沿い、生物多様性ひょうご戦略を定めている。県域は日本海と瀬戸内海、太平洋に面し、山地と平野部、島しょ部と、豊かな自然に恵まれる。その保全のため、同戦略では里山・里海の再生、環境学習・教育の推進、侵略的外来種の防除、野生鳥獣の適正な保護管理といった行動目標を掲げる。

 県内での陸域の保全割合は22・5%(23年度)で、やはり30by30の目標には遠い。対策を加速させるには個人、団体、企業、教育機関などの地域における連携が重要になる。地域同士の協力も欠かせない。

 イカナゴやタコの漁獲量減少などに危機感を抱く明石市は今年1月、「水とみどりでつながる あかしネイチャーポジティブ宣言」を表明した。ため池や農地、河川、海岸などを保全し、陸の栄養が海に届く生態系の回復を目指すという。コウノトリの野生復帰に取り組む豊岡市は昨年、トキを保護する新潟県佐渡市の農業者らを招き「環境創造型農業サミット」を開いた。こうした地に足の着いた活動を継続したい。

 生物多様性に恵まれた環境は、人間の生命や生活を支えている。その喪失は私たち自身の危機でもある。今年7月、IUCN日本委員会などが、熊本で2回目のグローバルネイチャーポジティブサミットを開く。各国の成果も参考にしながら、地域で取り組める身近な環境保全を進めていかねばならない。