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 1997年に神戸市須磨区で小学生5人が襲われた連続児童殺傷事件で、6年生の土師淳(はせじゅん)君が命を奪われてから29年がたった。その間、父の守さん(70)が参加する「あすの会」や後継団体「新あすの会」の尽力で犯罪被害者や遺族の権利は一歩ずつ拡充されてきた。官民が協力し歩みをさらに強固にしたい。

 4月には307の支援策を盛り込んだ国の「第5次犯罪被害者等基本計画」がスタートした。守さんたちが2004年に実現させた犯罪被害者基本法に基づく5年計画だ。

 目玉施策として性犯罪の被害者、殺人事件や交通死亡事故の遺族らを対象に「被害者手帳」を配布する。被害内容を記録し、何度も説明する必要をなくす。支援者が対応状況などを記録する「カルテ化」も進め、長期的な支援をしやすくする。

 犯罪や事故で大切な人を失った遺族の心情は筆舌に尽くせない。神戸連続児童殺傷事件で4年生の彩花(あやか)ちゃんを亡くした母、故山下京子さんは「息をするだけでつらい」と話していた。プライバシーの保護には十分留意しつつ、心身の負担をできる限り軽減する必要がある。

 計画にはインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策の充実も盛り込まれた。交流サイト(SNS)への心ない書き込みなどで被害者をさらに追い詰めることがあってはならない。

 まだ道半ばの施策もある。被害者の損害回復支援だ。一昨年から犯罪被害者等給付金が増額されたが、十分とは言えない。被害者側が損害賠償請求しても加害者側に支払い能力がなく泣き寝入りする例は多い。

 計画には北欧などの先進施策の調査が盛り込まれた。国が損害賠償金を補償した上で加害者から回収する仕組みは検討に値する。国内でも明石市が独自に賠償金の立て替えを実施している。より実効性の高い支援に向け、制度設計を急ぐべきだ。

 神戸連続児童殺傷事件の全事件記録が廃棄されていたことが本紙報道で発覚して以来、最高裁は記録保存の制度を見直し、少年事件では記録の永久保存が2年余りで7・2倍に増えた。しかし、外部からの要望による保存が低調など課題は残る。

 記録開示の在り方も問われる。少年事件では非公開が原則だが、守さんは「一定期間が過ぎれば歴史的記録として開示すべきだ」と訴える。

 事件記録を「亡き子の生きた証し」とする守さんの問題提起は重い。長い歳月を経ても遺族の多くが「なぜわが子が…」と問い続ける現状を直視しなければならない。

 被害者、加害者双方の個人情報に配慮した上で、少年事件の記録を開示し、犯罪防止や被害者支援に役立てる道筋を検討してもらいたい。