政府は2026年版の防衛白書を公表した。高市政権が今年4月に殺傷能力のある武器輸出を全面解禁し、年末には安全保障関連3文書の前倒し改定を控えることから「節目の年の白書」と位置付けた。「未来につながる安全保障」を掲げ、防衛力の増強を推し進める政権の姿勢を色濃く反映した内容だ。
日本を取り巻く安全保障環境を巡っては、軍備拡大を続ける中国について「これまでにない最大の戦略的挑戦」と前年の表現を踏襲し、中国軍空母の太平洋上での活動拡大などを詳述した。ロシアのウクライナ侵攻を「国際法の深刻な違反」と非難し、中国や北朝鮮との軍事協力強化に「重大な懸念」を表明した。
情勢を的確に把握し、それに備えることに異論はない。だが周辺国の脅威を列挙し、自国の防衛力増強を主張するだけでは、地域の緊張を高め軍拡競争をあおる恐れがある。緊迫した状況であればなおさら、偶発的な衝突を避け、エスカレートさせない仕組みが求められる。高市早苗首相は中国、ロシアとの対話の回路を見いだし、緊張緩和につながる外交戦略を練り直すべきだ。
見過ごせないのは、白書が随所で「防衛力の増強は国民生活や経済によい影響を与える」と繰り返し強調している点である。
ウクライナでの戦闘で見られたドローンや人工知能(AI)など先端技術を駆使した「新しい戦い方」や、長期戦を想定した「継戦能力」の確保に各国が取り組んでいるとし、防衛生産・技術基盤を国内で維持、強化する必要性を明記した。こうした装備品の研究開発は軍民両用の領域を広げ、雇用創出と経済成長につながると述べる。
政府は先に定めた成長戦略で防衛産業を重点投資分野とした。防衛省は27年度予算の概算要求で過去最大の8・9兆円を計上する方針で、高市首相は3文書改定により防衛費のさらなる増額を目指す。白書の記述でこれらを補強する狙いだろう。
しかし、防衛力強化が国民生活に寄与するとは限らない。昨年の国連報告書は、軍事支出の増加は各国の公的債務をさらに膨らませ、持続可能な平和を阻害すると指摘した。同規模の支出なら教育や医療、環境分野に振り向けた方がより多くの雇用を創出するとの試算も公表した。
防衛費を増やすため法人税などに加え来年から所得税も増税される。首相肝いりの消費税減税で生じる年間5兆円の穴埋め策も曖昧だ。国民に負担を求め、財政規律を度外視する安保政策が未来につながるのか。防衛産業頼みの経済成長が「平和国家」にふさわしいのか。根源的な問いに首相は答える必要がある。
























