尼崎JR脱線事故
宝塚発同志社前行き快速電車は、JR宝塚線塚口-尼崎間のカーブで脱線事故を起こした。事故の前、そして脱線の瞬間に何があったのか。航空・鉄道事故調査委員会(当時)が発表した最終報告書をもとに振り返る。
◇
「Pで止まったん?」
2005年4月25日午前8時54分ごろ、回送運転をしていた快速電車は、終点の宝塚駅手前で突然停止した。駅に到着後、車掌はホームで運転士に話しかけた。Pは、ATS-P(新型自動列車停止装置)。車掌は続ける。
運転士は「言う必要はない」というようなムスッとした顔で何も言わず、立ち去った
9時4分、宝塚駅を出発。中山寺、川西池田駅に停車し、通勤通学客が乗り降りする。同13分に北伊丹駅を通過。定刻より約34秒遅れた。速度計の表示は時速約120キロ。計測器の誤差で実際は時速約122キロとみられ、制限速度120キロを超えていた。
そして、伊丹駅で停止位置を約72メートル行き過ぎる。1両目に乗っていた40代男性は言う。
ブレーキがかかると思って身構えたが、「スー」と行ってしまう。「アレアレアレ」という感じ
9時15分、運転士は電車を後退させ、伊丹駅に停車。それでも所定位置より約3メートル後退し過ぎた。定刻より約1分8秒遅れの到着。
同16分、出発。定刻より約1分20秒遅い。
車掌が「次は尼崎」と車内放送した直後、運転士からの車内電話が鳴る。
「まけてくれへんか」
伊丹駅でのオーバーランを過少報告してほしい。車掌はそう受け取った。
「だいぶと行ってるよ」
車掌はそう答えた後、おわびの放送を求める乗客に呼ばれ、電話を切った。指令所にはオーバーランを「8メートル」と報告。9時17分、電車は猪名寺駅を通過した。
9時18分。通過する塚口駅手前で、時速は制限速度120キロを上回る約125キロまで加速する。1両目の20代男性は違和感を覚えた。
いつもなら減速するのに、その時は減速せず速いと思った
定刻を約1分12秒遅れて塚口駅を通過。事故現場のカーブに差し掛かる。1両目の40代男性は、運転の異常さを肌で感じていた。
とても曲がりきれる雰囲気ではなかった。曲がりきってくれと見ていたが、車体右側が「フワフワ」浮く感じになり、完全に下に付くことはなかった
制限時速70キロの事故現場カーブ。快速電車は時速約116キロで進入した後、脱線。1両目の20代女性がその瞬間を語る。
車内照明が消え、「ドン」という音とともにめり込んでいった。車内は洗濯機の中のよう
1両目は沿線のマンション1階の駐車場に突っ込んだ。車掌も当時の様子を説明する。
立っていた乗客は前方に滑るように動き、ほぼ全員が床に倒れた。客室から多くの悲鳴が聞こえた
脱線の直前、30代男性が運転士の様子を目撃していた。
運転士を見たのは多分、傾き始めるときぐらい。普段運転しているのと同じような姿勢のまま、全く動いていなかった
その後発見された運転士は右手袋を外した状態で、近くに赤鉛筆が落ちていた。
(年齢は当時)
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