尼崎JR脱線事故
三田市消防本部(兵庫県)に勤める西祐介さん(36)は中学時代の同級生小前宏一さん=当時(19)=を尼崎JR脱線事故で失った。3年間、共にボールを蹴り、仲良し4人組で遊んだ。あれから17年、自身は2児の父になり、休みは地域の子どもたちにサッカーを教える。でも記憶の友は当時のまま。4月になると思い出す。「一緒に飲みながら昔話したかったなあ」(喜田美咲)
西さんは1998年、上野台中学校に入り、小前さんと同じクラスになった。部活も一緒。明るく優しい性格に引かれ、すぐに打ち解けた。「こうちゃんは『嫌なやつ』という言葉が一番似合わない」
あの頃を思い出すと、思わず顔がほころぶ。学校で予防接種を受けた時、先に打った小前さんが「全然痛くなかったわ」と言いながら顔を真っ赤にして戻ってきたこと。部活で汗を流した後は、互いの家で一緒に「パワプロ」をし、「めちゃイケ」を見たこと。高校は別になったが、練習試合で会うと声を掛け合った。休みはたまにカラオケに行った。「話すのはサッカーか好きな子のこととかぐらいだけど」
卒業後、西さんは消防士になり、小前さんは大阪教育大学に進んだ。休みが合わず、顔を合わせる機会も減った。
宿直明けだったか休みだったか。家電量販店のテレビで事故を知った。小前さんが巻き込まれたのではないか、とも聞いた。メールを送り、電話をかけたがつながらない。翌日の勤務中、母から連絡が入った。「だめやったみたい」
言葉で聞いても想像できなかった。通夜でひつぎの中の小前さんを見てようやく実感した。「もう話せないんや」。涙があふれた。
翌年、救助隊に配属された。事故や火災の現場を駆け回った。心肺蘇生活動をしながら搬送した患者が息を引き取った時、泣き崩れる家族の声にふと小前さんを思い出した。友人の死に向き合ったこともあった。「自分たちはいつも何かが起きた後にしか助けに行けない」。悔しかった。
この仕事をする以上、多くのつらい場面に向き合わなければならない。生まれ育った地元であればなおさら。救助隊で11年過ごした後、予防課や消防学校の教官を経て現在の総務課に異動になった。後進を育て、現場をバックアップする役割だ。
「自分たちにできるのは、命をつなぐための最善を考えること」。突然、大事な人と話せなくなることがある。遺族となる人を1人でも減らしたい。新人が入ってくるたび伝えるようにしている。「どの現場でも、けがした人や病気の人を自分の家族だと思って助けてほしい」
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