みんな大好き、スライム。Vからはモンスターが仲間になるシステムも導入された。※画像はイメージです
みんな大好き、スライム。Vからはモンスターが仲間になるシステムも導入された。※画像はイメージです

 31年前にスーパーファミコン(SFC)で発売されたドラクエVの開発中画面がX(旧Twitter)にポストされ、話題です。

 「ベビーニュートがあらわれた!」

「ソルジャーブルがあらわれた!」

 当時、雑誌掲載用に作成されたという戦闘画面をよくみると、3匹のモンスターの配置に奥行きがあることが分かります。

 実際のVの戦闘システムでは敵に「前衛」「後衛」という仕様は実装されませんでしたが、「この画面めっちゃ覚えてる」「Ⅴはモンスターが2列になるのか!ってワクワクした」「すげーなSFCって思ってた」などの感想が殺到。「人生で初めてクリアしたRPGがドラクエV」と強い思い入れを持つ中川翔子さんからも「こういう情報を知れて未来すごい!」とコメントが寄せられました。

 ポストしたゲームグラフィックデザイナーのくりからはづきさん(@Hazuki_Kurikara)に開発当時の裏話を聞きました。

 投稿された画面は、週刊少年ジャンプやファミコン通信などに「鋭意制作中」として公開されたもの。

 くりからさんは「実はまだ戦闘システムどころか、フィールド画面さえ完成していない状況でした」と振り返ります。

 このため、ウィンドウのサイズやバックの地形などレイアウトはくりからさんが「直感的に」配置。
「上からも具体的な指示はなく、奥行きの話もその時は無かったように記憶しています」

 ドラクエⅣからVまでの開発期間は約2年半でした。研究機関も含まれている期間で、スケジュール的にはカツカツでしたが、開発陣は最新型のゲーム機(スーパーファミコン)で何が表現できるのか?という可能性を模索していたといいます。

 くりからさんもチーフデザイナーやプログラマーと相談し、「できるだけ完成形に近いイメージ」に作り上げ、画像の公開に踏み切りました。

 ところが、開発画面を見たファンの期待値は高まる一方。

 30年の時を超えた今回の投稿にも「この画面、懐かしい。めっちゃワクワクした」と強い思い出が刻まれていました。

 くりからさんは「結果、ファンの皆さんには期待させ過ぎてしまったかも」とぽつり。

 くりからさんはこの他にも、開発中のキャラクターのドット絵も公開しています。

 なんと開発初期、キャラクターサイズはファミコン版の倍の大きさで作られていたそうです!
しかし、堀井雄二さんのある考えによって製品版のサイズに落ち着くことになったとか。

 その経緯もお話してくれました。

 くりからさんが公開した開発画像には、SFC製品版よりもかなり大きめの主人公とビアンカが披露されています。

 「本当にテスト的に描いたモノです。単純に『スーファミだからこのくらいは欲しいよね』という社内の雰囲気もありましたので」

 サイズが大きいとその分、キャラクターができる表現も豊かになります。

 しかし、ドラクエファンが本当に求めているものは表現の豊かさなのか。開発スタッフは度なる会議で「ドラクエらしさとは何か」を話し合います。

 従来のファミコンのドラクエだと、キャラクターのアニメーションは、左右に手足を出した2枚のパターンを交互に表示することで、歩いているように見せていました。

 これに対し、テストバージョンのキャラクターは、さらに立ちポーズを合わせた3つのパターンで構成されていました。

 静止状態の時には立ちポーズ、歩く際には左右踏み出したパターンの間に、立ちポーズを挟み中間パターンとして歩くので、ファミコンより滑らかでリアルな動きができるようになりました。

 しかし、この方法は当然グラフィック容量が増やすことになり、主人公やヒロインの他、街の人々や、仲間にできるモンスターまで広げると、膨大な容量になってしまいます。

 それにより、ダンジョンや塔、イベントを削ることになってしまっては本末転倒になってしまう。

 決めたのは、堀井雄二さんのひと言だったそうです。

 「これだとゲーム画面の印象が冷たくなるね」

 くりからさんによると、ドラクエ特有の“キャラクターが常に足踏みをしている状態”というのは、実は街やお城の賑わいや活気を表現しているそうです。

 2パターンのアニメだと、デフォルメされた動きであるため違和感が無い。しかし、3パターンの滑らかな動きでその場から移動せずに足踏みさせると実に奇妙なぬるぬるとした動きになってしまう。

 今のリアルなグラフィックであれば、街の人々が立っているのは普通ですが、30年前のドット絵だと違和感があることを堀井さんは見抜いていたのです。

 くりからさんは「繊細な絵力をきちんと意識されている堀井さんの凄さに驚かされました」と脱帽します。

 ちなみにくりからさん。ゲームではV最大の論争となる花嫁問題。ビアンカに並ぶもう一人のヒロイン、フローラのデザインを担当しています。

 「ある日突然チーフデザイナーから描いてくれと指示がありました。フローラはもともと、ビアンカと違ってそこまで重要視されたキャラではなかったんです故に担当を任されたのではと思うのですが、主人公の結婚対象であるコトに変わりは無いので、どうしても作業中に気負いが出てしまい、何度も何度もデザイン画を描き直しましたね」

 ドラクエのデザインといえば、鳥山明さん。巨匠の世界感を壊さないよう意識したといいます。

 「なんとか個人的に納得できるデザインを仕上げるも、待てよと思い直して自主的にボツにしたんです。ビアンカと対を成すような派手さは、プレイヤーを惑わすのではないかと。結果、余分なパーツを削ぎ落しシンプルな白いドレス姿にしました。ただ、ビアンカが金髪なので、せめて髪色だけはブルーで目立つようにと」

 ちなみに個人的にプレイする時はもちろんフローラを選ぶそう。

 「開発中も、ほとんどのプレイヤーはビアンカを選ぶであろうと思ってはいたので、せめて私だけでもフローラを選んであげねばと、いつも天空の花嫁はフローラですね。ただ、結婚相手というよりかは娘に近い感覚ですが」

 31年を経て、明かされるドラクエVの秘話。語り継がれていく伝説はまだまだありそうです。

(まいどなニュース/神戸新聞・前川 茂之)