「どんな役でもいいから出させてちょうだい」
結婚して43年、俳優の高橋惠子(70)は夫で映画監督の高橋伴明(76)に初めて直談判した。
7月4日公開の映画『「桐島です」』。夫の口からそのタイトルを聞いたときに「いい作品になりそうだ」と直感したからだという。
「これまで私から直談判するような事はなかったけれど、夫は『おお、そうか』と受け入れてくれました。脚本をもらって読んだ時に、まさかの登場のしかたで私の方が驚きました」
■祈りと弔い
2024年初頭、長きに渡る逃亡の末に自らの名を明かして死んだ桐島聡容疑者。東アジア反日武装戦線のメンバーとして半世紀にわたり指名手配されながら、どのような日常を生きていたのか?事実を基にイメージを膨らませながら、桐島容疑者の潜伏の日々を描き出す。
「爆破事件で亡くなられた方、遺族の方、関係者の方にとっては『冗談じゃない!』と思われるような題材の映画かもしれません。そのようなお気持ちも重々承知の上で、私は“祈り”や“弔い”の意味を込めて演じさせていただきました。私の登場は1シーンでセリフも一言ですが、当時の資料を読み込み、どのようにセリフを言うべきかギリギリまで悩み考えました」
本作同様に桐島容疑者の潜伏の日々を描いた映画『逃走』が、今年先んじて劇場公開されている。手掛けたのは日本赤軍元メンバーで映画監督の足立正生(86)。足立と伴明、二人の異なる視点によって形作られた桐島容疑者の人となりの違いを見比べてみるのも興味深い。
「足立監督の『逃走』は、実際に活動されていた足立監督ならではのイデオロギーが反映されていますが、夫の描く桐島容疑者像には強い政治的思想は感じられません。夫は革命ではなく映画の道を選んだ自分の姿を桐島容疑者に反映している気がします。同じ人物を題材にしてもここまで表現が違うのかと。そんなところも映画ならではの面白さだと思います」
■俳優デビューの孫へ
一番上の孫娘・海空(22)が本作で俳優デビューした事も話題に。
「最初は孫も断ったんです。身内なので甘えているように見られるのも嫌ですから。でも最後は夫の『いつまで生きていられるかわからないよ?』という殺し文句で…。おじいちゃんにそこまで言われたら孫も断れませんよね。運命なのか巡り合わせなのかわかりませんが、結果的に良いきっかけのデビューになったと思います」
先輩俳優として新人の海空にアドバイスを送るとするなら?
「役者とは会社員と違って明日の保証もない、万年失業者のようなもの。与えられた仕事で結果を出さない限り次に繋がる道はありません。やると決めたら責任を持って精一杯、最善を尽くす。与えられたチャンスを最大限に活かして楽しんで、悔いの残らないようにやりなさい。…そう伝えたいです」
孫への助言はそのまま、これまで高橋自身が歩んできた55年にわたる役者道を表す言葉のように聞こえた。