「正解とか不正解とかの次元を超えてグサッと胸に刺さった」
俳優の円井わん(27)がそう評するのは、『ミッドナイトスワン』で知られる内田英治監督が手掛ける『逆火』(7月11日公開)のこと。渦中の人物となるARISAを演じた。
■尖っていた10代
ベテラン助監督の野島(北村有起哉)は、新進気鋭の映画監督が手掛ける次回作の準備に追われていた。それは貧困のヤングケアラーでありながらも成功したARISAのベストセラー自伝小説の映画化。しかし野島が取材を進めれば進めるほど、炙り出されていく数々の不都合な真実。映画製作は中止か、それとも…。
美談によって若い世代からカリスマと崇められるARISAを絶妙に体現した円井。カリスマ性のイメージとしてAwichやビリー・アイリッシュを参考にしたそうだが、人を寄せ付けないピリッとした距離の測り方は10代の頃の自分を思い出して演じたという。そもそもARISAの人物造形は、内田監督がデビュー当時から知る円井をイメージして生み出したものらしい。
「10代の頃は“舐められたくない”とずっと思っていて、人と目を合わさない、とりあえずムッとすることを大事にしていました」と若気の至りに照れながら「それこそ内田監督は私のことを18歳の頃からご存じ。そんなやさぐれていた10代の頃の私がARISAというキャラクターに反映されている気がします」
野島の追及にARISAは真実を語る。カリスマという名の鎧を脱いだ内側には、悲惨な生い立ちを背負う一人の少女がいた。
「相手を寄せ付けない雰囲気を出したり、自分を尖ってるように見せたり、そんな態度をARISAは取りたくなかったはず。でも大きな秘密を抱えているがゆえに、そう見せなければならなかった。防御本能として自分を守るためのポーズだったのだろうと演じながら感じました」
■かつては行動の鬼
円井という芸名の由来は面白い。尖ったナイフすぎた10代の彼女の様子を見かねた先輩俳優が、人として“丸く”なるようにとの願いを込めて命名したというのだから。
その願掛けが効いたのかどうかはわからないが「20歳を超えてからは丸くなったというか、今は尖りもありません」と言うも「ただ若干その名残が拭えないのか、第一印象は必ず怖がられます。やさぐれているキャラクターを当て書きされることも多い。でもいざしゃべっててみると『イメージと全然違う!』と驚かれて一気に好かれる。誤解されがちです」と苦笑い。
映画初出演は内田監督の『獣道』(2017年)。「当時の私は“行動の鬼”で、内田監督の『下衆の愛 - LOWLIFE LOVE』に感動して、何の経歴もないのに履歴書を持参で直談判。その時は断られるも、次の週に食事会があると聞いてそこにも乗り込みました。それが今では当て書きされるようになるなんて…。あの日の私が聞いたら大号泣です」
現在はバイプレイヤーとして引っ張りダコだ。2025年度後期の朝ドラ『ばけばけ』への出演も決まっている。ヒロイン・トキ(髙石あかり)の幼馴染という役どころ。ブレイクの登竜門登板に肩をぶん回しているのかと思いきや…。
「若き日のギラギラ感は焦りの表れだったと思います。行動の鬼だった当時のオーラが徐々に薄れて肩の力を抜き始めたら、良い方向に転がり始めたというか…。今では自分が面白いと思う方向に進めればいいと達観した感覚があります」
自分の歩幅を持ってる人だ。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)