1m引き出された充電ケーブルには理由がある
1m引き出された充電ケーブルには理由がある

電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を家庭で充電する場合、付属の充電ケーブルをコンセントに挿して使うのが一般的です。しかし、このやり方には意外とストレスが溜まるもの。

まず、充電ケーブルが地面に接触するため、どうしても汚れてしまいがちです。特に、地面がコンクリートやアスファルトではなく、土や砂利の場合、汚れはさらにひどくなります。雨天や花粉・黄砂の季節は、ケーブルの汚れがひどくなり、素手で触るのもためらわれます。汚れたケーブルをそのまま車のトランクに積むのも気が引けるものです。また、床に放置すると車で踏んで断線する恐れがあります。充電のたびに、車から充電ケーブルを取り出して電源まで移動させ、接続する作業も意外と面倒に感じるものです。

しかも、充電ケーブルって思っている以上に高価です。純正品は5~7万円もするので、盗まれるリスクも心配。実際、オークションサイトを見ると多数出品されています。

こうした問題を解決しようと、充電器を壁に設置したり、地面にスタンドを立てたりするなど、さまざまな製品が販売されています。しかし、多くは長い充電ケーブルを手で束ねてフックにかける方法を採用しており、結局手が汚れてしまうという問題は解消されませんでした。

■業界トップのコードリール技術がEV充電に革新をもたらす

そんな悩みを解決できる家庭用EV充電器を、東京ビッグサイトで開催された「第38回オートサービスショー2025」で発見しました。業界初の充電ケーブル巻き取り式EV充電器「EVmac」を開発したのは、コードリールを専門に製造する株式会社畑屋製作所。さっそく、同社の尾澤正さんに、製品の特徴を伺いました。

「当社は国内2社しかないコードリール専門メーカーの1つで、電気工具やエアー工具のコードを巻き取るドラムの製造が得意分野なんです」と、尾澤正さん。実は同社は、工場でよく見かける電気コードのリール(巻き取り機)で国内シェアNo.1の実力者。その技術をEV充電器に応用したのが「EVmac」。天井や柱から吊り下げるスタイルで、まさに工場のコードリールそのものです。

この「EVmac」の最大の特徴は、コードリールのように充電ケーブルが自動で巻き取られる点です。ケーブルを引き出すと「カチカチ」と音が鳴り、その音の出る場所で手を離せば、充電ケーブルはその長さを維持します。これは、ドラムの半周に付いたギザギザに爪を引っ掛けて充電ケーブルを止める仕組み。逆に巻き取りたいときは、さらに少し引き出して「カチカチ」と鳴らないところで手を離すと、自動で巻き取ってくれます。

充電ケーブルの根元にはボール形状のストッパーも付けられており、充電ケーブルがすべて巻き取られてしまうことを防止してくれます。コネクタ付近にストッパーを設ける案も考えられますが、尾澤さんによると「充電ケーブルを巻いたまま充電すると発熱して危険なため、安全に充電できるようにあらかじめ1mの長さを引き出しているのです」とのこと。万が一、発熱した場合は、センサーが自動で感知して充電を停止する安全機能も備わっています。太いケーブルは発熱しにくい反面、巻き取りにくくなるため、太さや長さを最適化し、安全に使用できるよう工夫しているそうです。コネクタもコンパクトタイプを採用し、「EVmac」はメイド・イン・ジャパンの安心・安全な製品。

「EVmac」は3.2kWの普通充電に対応していて、充電時間の目安としては100%充電するのには、バッテリー容量20kWhの「日産サクラ」だと約8時間、40kWhの「日産リーフ」だと約16時間、60kWhの「テスラモデル3」だと約23.5時間で完了します。設置場所は天井や柱などを想定しており、防水機能はないため、雨にさらされないガレージ内などでの使用を想定。価格はまだ発表されていませんが、発売は2026年の年明けを予定しているとのこと。さらに、防水機能の追加や筐体の薄型化といったアップデートも検討されているそうです。

充電ケーブルの汚れや盗難、そして面倒な作業など、家庭でのEV充電にまつわるさまざまな課題を解決してくれる「EVmac」。長年培ってきたコードリールの技術を応用した、まさに画期的な製品といえるでしょう。EVやPHEVを所有している方にとっては、待望のアイテムとなるでしょう。

(まいどなニュース特約・鈴木 博之)