生き物として存在するビニール袋の「ブクロ」と主人公の内海 (ヒロ・コトブキさんの提供)
生き物として存在するビニール袋の「ブクロ」と主人公の内海 (ヒロ・コトブキさんの提供)

夜道を歩いている時、猫がいると思って近づくとビニール袋だったという経験はありませんか。SNSに創作漫画を投稿しているヒロ・コトブキさんの『猫だと思ったらビニール袋だった話』は、主人公が生き物として存在するビニール袋と道端で出会い、ともに生活する様子が描かれた一作です。以前X(旧Twitter)にポストされると、4000を超える「いいね」が寄せられています。

■面接でパニックになる主人公を助けたのはビニール袋?

就職活動中の内海は道端でビニール袋の「ブクロ」と遭遇。ブクロに懐かれたようで、内海の住むアパートまでついてきてしまいます。しかし、区の指定ゴミ袋以外は入居不可という決まりがありました。

それでもブクロは、体を折り紙のように鶴やカブトに形を変えて内海にアピールします。ブクロの頑張りに応えたいものの、決まりを破ることができない内海は切ない気持ちのまま自室に入ってしまいました。

その後、いたたまれない気持ちになった内海は区の指定のゴミ袋にブクロを入れるという苦肉の策を実施します。そして、ブクロを部屋に入れると、ブクロはうれしそうに内海とじゃれ始めるのでした。

ブクロと打ち解けた内海はブクロに「就職活動をしている」「87社の面接に落ちている」ことを話します。内海いわく、面接になると緊張してガチガチになり、家にいる時みたいにうまくしゃべれないとのこと。そして、明日は88社目の面接の日。話を聞いたブクロは内海をなぐさめ、その後に身を寄せ合うようにして内海と一緒に寝るのでした。

面接当日、緊張した面持ちの内海。「いつもの自分」と言い聞かせ落ち着かせようとするも、パニック状態になります。面接会場の扉を開けた後に、扉に向かって「失礼します」と言って扉に頭をぶつけてしまう始末です。内海は面接が始まってもパニック状態から抜け出せず、まともにしゃべることができません。

すると、急に面接会場の窓からブクロが入ってきて、袋の中に溜めた空気を内海にかけます。その時、いつもペラペラと流暢に喋れる自室のニオイを感じる内海。一気に緊張がほぐれた内海は落ち着いたトーンで喋り始め、冗談を言って面接官を笑わせることにも成功します。そして、晴れて面接に受かり、入社することになるのでした。

入社後のある日、上司はいつもビニール袋に弁当箱を入れてくる内海に「そろそろ弁当袋くらい買いなさいよ」と言われます。しかし、内海は「これがいいんですよ」と言って、ブクロの中のニオイを嗅いで気持ちを落ち着かせるのでした。

読者からは「ブクロのリアクションが可愛い」「たまらなくブクロが欲しい」などの反響が。そこで作者のヒロ・コトブキさんに、同作を手がけたきっかけについて話を聞きました。

■お気に入りは「面接で緊張している主人公に空気を吹きかけるシーン」

-同作を描く経緯を。

よく言われる「あるある」なシチュエーションを、そこで終わらずにふくらましていくのが好きみたいです。今回のものでいえば「猫だと思ったらビニール袋だった。...ので、飼うことにした」という感じです。長くなるかそこで終わるかは、その時のペンの調子にまかせます。

-お気に入りの場面は。

面接で緊張している主人公に空気を吹きかけるシーンです。僕には(ちょっと非力な)正義のヒーローに見えます。

-Xで様々なジャンルの作品を投稿されています。どのように物語を考えているのでしょうか?

ちょっぴり早起きして、朝の何も入ってない真っ白な頭と、半分寝ている脳を利用して、リアルとファンタジーの狭間みたいなところでお話を作ります。体や頭がハッキリしてくるとお話作りをやめて、マンガをiPadで描いていきます。

-読者にメッセージを。

みなさんが読んでいる漫画の中に、僕の漫画も入れてもらえてしあわせです。触れたことのない方々が、触れたことのない僕の物語で心を(少なからず)動かしてくれているという事実は、本当に力になります。いつもありがとうございます。

(海川 まこと/漫画収集家)