マツダスタジアムのミストの様子。冷たくても濡れないのが不思議
マツダスタジアムのミストの様子。冷たくても濡れないのが不思議

大阪・関西万博会場内の休憩所などで発生している霧。細かいミストで、冷たいのに濡れない不思議なフンワリ感は、暑さでバテた来場者を癒している。

制作するのは、主にノズルの開発から販売を行う株式会社いけうち(大阪市西区)。同社のノズルは熊本城や梅田うめきたパークで雲海を発生させ、熱気あふれるマツダスタジアム(広島)など全国で涼を届けている。濡れない霧の正体は?ノズル事業部の牧丘(まき・たかし)さんに話を聞いた。

--そもそも濡れないのはなぜですか?

牧:普通のスプレーではなく、水の出口と向かい合うように、針のような突起物を設置しているPINJetというノズルを使っています。水の粒子が一般的なミストより、とても細かくなるんです。

またこのノズルはミストを大量に発生させることができます。発生した霧の粒はとても細かいため、肌に触れても濡れを感じさせることなく気化・蒸発していきます。工業用途にはより細かな霧が利用されていて、工場の静電気対策などにも導入されています。

--元々の用途は?

牧:実は2011年に東日本大震災の時、電力不足が問題になりました。新しい発電所を建てるには予算も時間も必要だったので、それ以外で効率よく発電量を増やす必要があったんです。

外から空気を取り込んで大きなガスタービンを回し電力を作っているのですが、夏は気温が上がるため空気の密度が低くなります。すると(空気に含まれる)酸素の量も減ります。そこで、ミストでタービンに吸い込む空気を冷やし、発電効率を上げるために使われるようになったのがこのノズルでした。今ではほぼ全ての発電所で利用されています。

--冷やす以外にも、うめきたパークや熊本城など、雲海のような演出にも使用されていますね。

牧:2014年に、島根県松江市の「由志園」という庭園に暑さ対策用に涼霧ノズルを導入しました。

するとミストに太陽の光が当たって光芒(こうぼう)が見られるようになり、人工的にこういった現象を作ることができるのではないか?と相談され、5万種あるノズルの中から選んで提案したのが、現在雲海や万博の休憩所で使われているPINJetでした。当社では演出に使う発想が無かったので驚きました。演出の方法は、由志園さんと一緒に開発していきました。

--オーダーは増えていますか?

牧:今年も来年もどんどん増えています。これからもミストの需要はどんどん増えていくのでは?と思っています。日よけや帽子では足らなくなります。ミストが普及すれば、出かける人も増えるはず。音楽や照明と組み合わせて、楽しい体験になるよう進化したいと考えています。

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実際にミストを体験した人からは「子どもが本当に喜んで遊んでくれる」「幻想的で素晴らしい」「映画の中にいるみたい」など好評。全国色々な場所で稼働しているため、見かけられた際はぜひ立ち寄って涼んでいただきたい。

(まいどなニュース特約・米田 ゆきほ)