経営改善策として休床となり、電気が消されたスタッフステーション=洲本市塩屋1、淡路医療センター
経営改善策として休床となり、電気が消されたスタッフステーション=洲本市塩屋1、淡路医療センター

■全10施設赤字、内部資金枯渇

 住民の命を守る地域医療を考えるとき、お金の話をすることに抵抗がある人は多いかもしれません。ですが病院の存続自体が危ういとしたら、どうでしょう。

 「最後の砦(とりで)」と呼ばれ、強い存在感を放つ公立の拠点病院がいま、危機的な赤字経営となっています。兵庫県内で10カ所に直営病院を抱える県病院局によると、2024年度の経常赤字は過去最悪の128億4900万円。その年度末には内部留保資金が枯渇し、借金運営に陥りました。民間の金融機関からの借入金でしのいでいます。

 県病院局トップの杉村和朗病院事業管理者は神戸大病院に在籍していた頃、地域医療の持続可能性を高めるため、全国に先駆けて県立病院などの再編に取り組みました。その杉村さんが「企業的に考えるなら、いくつかの病院を数年内に閉じなければならない」と言うほどの状況です。

 無論、病院局は現状維持に努めており、県の信用もあるので、すぐに資金調達が滞ることはありません。ただ、危険な「綱渡り」経営であるのは否めません。

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 病院経営の苦境は、全国的なものです。

 全国自治体病院協議会(東京都)によると、86%もの会員病院が、24年度に経常赤字を出しました。

 巨額赤字は、治療などによる病院の収入が「診療報酬」という国が決めた価格で固定されていることが主な要因です。たとえば昨年、県立病院の職員の賃金が人事委員会勧告を受けて上がりましたが、診療報酬は2年ごとの改定のため、その間の支出増は考慮されていません。加えて、物価高を背景に医療機器や薬の値段は急上昇し、値上がり分は病院が出しています。医療界全体で診療報酬アップを求めていますが、社会保障費削減が叫ばれる中、実現は不透明です。

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 ところが病院の危機感は、なかなか市民に伝わりません。「医師の給与を削ればいい」「公立病院は税金で補助できるから大丈夫」。そんな声さえ聞こえます。

 23年の医療経済実態調査報告によると、公立病院の医師の平均年収は1456万円と高額ですが、09年の同じ調査で、開業医の平均年収は2458万円です。もし医師が開業するために公立病院を辞めていけば、病院の外観がいかに立派でも機能しなくなります。

 以前は大学病院が地域の関連病院に人材を送り出す役割を一手に担っていました。ですが、制度が変わり、その力は低下しました。医師は都市部に集中し、郡部の病院ほど人材確保に苦労しています。

 一方、救急など採算を取りにくい医療に対し、国の基準に従って兵庫県が一般会計から毎年計150億円ほど繰り入れているのも事実です。ただ、それでも巨額の赤字が出ているのです。仮に、県の貯金である財政基金で穴埋めしたとしても、直近2年分の赤字にさえ足りません。

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 今回、神戸新聞は各病院に現場のルポ取材をお願いしました。実情が生々しく報じられると職員が離れていくのでは、と心配した病院幹部もいました。それほど現場は薄氷を踏むような緊張感に満ちています。

 公立の「赤字病院」は、医療従事者の意地と誇りでぎりぎり支えられていました。社会の高齢化は進み、今年全ての「団塊の世代」が後期高齢者になりました。がんになったり、足腰が弱ったりした高齢者にとって、もし身近な病院が突然なくなったらどうなるでしょう。今こそ、地域医療を再考しなくてはなりません。(霍見真一郎)

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