2025年9月7日、石破茂首相(自民党総裁)が参院選における自民党・公明党の惨敗を受け退陣を表明し、日本の政局はポスト石破をめぐる激しい争いに突入した。自民党総裁選(22日告示、10月4日投開票)では高市早苗前経済安全保障相や小泉進次郎農林水産相らの名前が挙がっている。
米国は日本の新政権の動向を注視し、その性格が日米関係や対中国・対北朝鮮政策、日韓関係にどう影響するかを慎重に見極めている。本稿では、米国の視点から新政権がもたらす期待と懸念を分析する。
石破首相は2024年10月の就任以来、2024年の衆院選、2025年の都議選、そして参院選の3連敗や日米関税交渉をめぐる対応で党内からの圧力に直面した。7月の参院選で自民・公明が改選議席66から47に減らし過半数を割り込むと、党内での「石破降ろし」が加速。9月6日夜、菅義偉副総裁や小泉氏らの退陣要請を受け、翌7日に退陣を表明した。自民党は9月8日の両院議員総会で総裁選の前倒しを決定し、臨時国会前に新総裁を選ぶ。候補には高市氏、小泉氏、岸田文雄元首相、河野太郎氏らが名を連ね、日本の外交・安全保障政策の方向性を左右する政局となる。
米国は新政権のイデオロギーと政策に注目する。トランプ政権はインド太平洋地域での対中国・対北朝鮮戦略で日本との連携を重視する。保守中道政権が誕生すれば、日米関係に大きな変化はないと見なすだろう。石破政権は関税交渉で批判されたが、対中政策では抑制的なアプローチを維持し、日米同盟を尊重した。この路線が継承されれば、米国は安定した同盟関係を期待する。
しかし、高市氏のようなタカ派政権が誕生した場合、米国は期待と懸念を抱く。期待は対中国政策での積極的な協力だ。高市氏は中国の軍事的・経済的台頭に対し強硬姿勢を示しており、首相就任なら日米共同の対中牽制が強化される可能性がある。
一方、懸念は日韓関係の悪化だ。近年、日韓は歴史問題の緊張を抑え、日米韓の三カ国連携を強化してきた。北朝鮮のミサイル開発や中国の海洋進出に対抗し、情報共有や合同軍事演習が進んでいる。だが、タカ派政権が歴史問題で強硬姿勢を取れば、韓国との関係が後退するリスクがある。高市氏は靖国神社参拝や歴史認識で韓国を刺激する発言をしてきた過去があり、これが再燃すれば韓国の反発は必至だ。日韓関係の悪化は日米韓の三角同盟に亀裂を生み、米国にとって好ましくない。
日米韓の連携はインド太平洋の安全保障で中核的な役割を果たす。石破政権下では日韓関係が安定し、2023年の日韓首脳会談以降、経済・安全保障での協力が進んだ。タカ派政権が歴史問題を再燃させれば、韓国との対話が停滞し、三カ国連携に悪影響を及ぼす。米国は新政権に日韓関係の維持を求めるだろう。
米国は新政権が日米同盟を基軸に、対中・対北朝鮮政策で積極的な役割を果たすことを期待する。トランプ政権が「アメリカ・ファースト」を掲げる中、日本が経済的・軍事的負担を増やす形で同盟を強化することを望む。だが、日韓関係の悪化は戦略上のリスクだ。日本の次期首相の選択とその外交姿勢は、米国の対アジア戦略に大きな影響を与える。
日本の新政権は日米同盟と地域の安全保障の未来を左右する。保守中道なら安定が期待されるが、タカ派政権は対中強硬策への期待と日韓関係悪化への懸念を生む。日本の選択は、地域の安定と同盟関係の行方を決定するだろう。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。