会社員のAさんは、最近会社帰りに行くスーパーで不満を抱えていました。理由はレジに並んでいる時の割り込みです。Aさんが通うスーパーは仕事終わりに行くと、ちょうどタイムセールをやっていて、売り場もレジも混雑しています。そんな中、帰宅後に食べるお弁当や飲み物などをかごに入れてレジに並んでいると、決まって横からスッとレジ列に割り込んでくる人がいるのです。
どんな人が割り込んでくるのか見てみると、スマホを見ながらヘッドホンをした学生風の男性でした。どうやらスマホで再生している動画に集中していて、周囲があまり見れていないようです。
Aさんは彼に注意をしたいと思う一方で、ケンカになってしまうことや無視されてしまうことを恐れ、動けないでいます。このような状況でAさんが男性に割り込みを注意するためにはどうしたらよいのでしょうか。
心理カウンセラーの喜多村純子さんとマナー講師の青木直美さんに話を聞きました。
■心理カウンセラーが考える注意できない理由とは
ー「理不尽だ」と思っているのに声を出せないのは、心理学的にどんな背景がありますか?
無意識に相手を自分より強い存在と見てしまうときに起きやすいです。支配的な親に育てられた人や、意見を言うと強く叱られた経験のある人は、「逆らうと危険だ」という感覚を持ちやすく、その影響で大人になっても声を出せなくなることがあります。
ー注意するとしたら、心理的に落ち着いて伝えるための工夫はありますか?
相手を責めるのではなく「事実を伝える」という意識を持ちましょう。「私が先に並んでいましたよ」と冷静に言うだけで構いません。声を出すこと自体が怖い人は、まず「自分の意見を伝えることへの恐怖」をほぐしていくことが大切です。
ー スルーする場合に「言えなかった」と自分を責めないためには?
「私は怖かったのだから仕方ない」と受け入れることです。弱いからでも臆病だからでもなく、攻撃やトラブルを恐れた自然な行動だった、と自分を認めることが大切です。
■マナー講師に聞く「角を立てずに割り込みを伝える方法」
ー相手を逆上させずに注意するには、どんな言い方や工夫が有効ですか?
大切なのは“感情ではなく事実を伝える”ことです。 「割り込まないでください」「並んでるんですけど!」と強い言い方をすると、相手もよい気持ちがしません。中には割り込むつもりがなく列に入った人もいます。「すみません、こちらが列の最後みたいです」と柔らかく伝えると、相手は素直に引きやすくなります。
ー実際のレジの場面で使える「一言フレーズ」を教えてください。
「失礼ですが、こちら順番待ちの列で、あちらが最後尾みたいですよ」
「すみません、列が長くて分かりにくいですが、最後尾はあちらみたいですよ」
いずれも「責める」のではなく「確認する」スタンスで伝えるのがポイントです。
ー言い方以外で気をつけるべきことはありますか?
声のトーンや立ち位置が大切です。真正面から強く言うと威圧的に感じられるので、斜め横から穏やかな表情で、優しい声で伝えましょう。
「すみません」と添えるだけで柔らかくなりますし、語尾を「~ですよ」「~でしょうか」と和らげるのも効果的です。
◆青木直美(あおき・なおみ)さん
リファインドマナー代表。マナー講師・人材育成コンサルタント。実践的で効果的な教育体制を構築
◆喜多村純子(きたむら・じゅんこ)さん
大阪の心理カウンセラー・心理学セミナー講師。10年間での1500人以上のクライアントからはトラウマが消えた、人生が変わったと定評を得ている
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)