静まり返った病院は何かが出そう… ※画像はAIが作成したイメージです(MACHATOMI/stock.adobe.com)
静まり返った病院は何かが出そう… ※画像はAIが作成したイメージです(MACHATOMI/stock.adobe.com)

新人看護師のAさんにとって、その夜は初めての夜勤でした。経験したことのない緊張感が、ずっしりと肩にのしかかります。深夜2時を回り、ナースステーションが静寂に包まれたその時、静けさを破ってナースコールのランプが点灯しました。

モニターに表示された部屋番号は「404号室」です。しかし、その部屋は数日前に患者さんが亡くなられてから、誰もいない空室のはずでした。Aさんが恐怖で固まりますが、なぜか隣にいた先輩看護師は顔色一つ変えません。しかも「じゃあ私が見てくるね」と言って先輩はそのまま病室に向かいます。

Aさんは、「幽霊が出たのか?」「なぜ先輩は平気なの?」と考えを巡らせながら先輩の帰りを待ちます。しばらくして帰ってきた先輩は、「何もなかったわ」とだけ告げると、それ以上何も語りませんでした。

このような出来事は、新人看護師にとっては刺激が強いですが、ベテラン看護師にはよくある話として慣れたものなのでしょうか。看護師専門の研修講師である太田加世さんに話を聞きました。

■理屈では説明できない出来事への遭遇は少なくない

ー過去に体験した怪談話を教えてください

私が体験した中で最も怖かったのは、深夜のナースコールです。

夜勤で、消灯から1時間ごとに患者さんの見回りをしていました。全ての患者さんがベッドにいらっしゃることを確認し、ナースステーションに戻った直後のことです。突然ナースコールが鳴り、表示を見ると誰もいるはずのない「お風呂場」からでした。

当時の病院では、お風呂場は事故防止のため夕方5時には施錠し、浴槽のお湯も抜いてしまいます。夜間に鍵がかかっていることも確認済みでした。あまりに不気味だったので、同僚と二人で確認に向かうと、やはりお風呂場のドアは施錠されたままで、中の電気も消えていました。

万が一、誰かが中にいたら大変なことになるため、恐る恐る鍵を開けて中を確認しましたが、当然誰もいませんでした。その後、コールが鳴ることはありませんでした。後日、業者の方に点検してもらいましたが、故障は確認されず、真相は分からないままです。

ーほかに、耳にした話などはありますか

同僚の看護師や患者さんからは、重症患者さん用の個室で、「茶色い袈裟を着たお坊さん」を目撃したという話を聴かされました。不思議なことに、申し合わせたわけでもないのに、目撃したお坊さんの姿や、患者さんの足元に立っていたという状況が全て一致していました。

さらに奇妙なことに、そのお坊さんを見た患者さんは、亡くなるのではなく、みなさん元気に退院されていきました。そのため「縁起の良い霊なのでは」と噂されていました。しかし、師長がその噂を気にしてお祓いをしてもらったところ、それ以降、お坊さんを見たという人はいなくなったそうです。

ーこれらの不思議な現象を、医療従事者はどのように受け止めていますか

否定せずに受け入れている人が多いように感じます。医療現場、特に人の生死に近い場所では、科学では説明がつかない出来事に遭遇することが少なくありません。

例えば、月の満ち欠けや潮の満ち引きと、人の出産や亡くなるタイミングが不思議と一致することがあります。また、亡くなられた旦那様の命日に、後を追うように奥様が息を引き取るといった経験も一度や二度ではありません。

理屈では説明できないけれど、実際に目の前で起こる現象を何度も経験しているため、不思議な話を「ありえないこと」と一蹴せず、自然に受け入れている医療従事者は多いと思います。

◆太田加世(おおた・かよ) C-FEN(シーフェン)代表
病院勤務、大学教員等を経て、2007年より現職。看護師を対象としたマネジメント、コミュニケーション等の研修を行う。著書に「看護管理 ナースポケットブック」(Gakken)等がある。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)